カフェ �W
あれって薄っぺらいね
あれって?
彼は本屋のなかほどにある大人の雑誌にめをやっている 喫茶店の窓からは真正面になる
ひとによっちゃすごく深いもののようにいうけど
でもそういう衝動って大事なことなんでしょ?
前にそんな風に言ってたよな僕自身が
子孫繁栄のためにも確かに大事だよな
でもやっぱり奥深くはない 性に関係するもののなかで芸術に昇華するものは別として 男と
女の秘め事にそれ以上のものはない
へぇ なんかその道を極めてきたひとみたいね
えっそういう意味じゃ...いいやそうかもしれん それほど誰もが簡単に行きつく薄っぺらいものさ
なにか悟りました?
なにも得るものがないよ 積み重なっていくものがない
そういうものがあるって思っていたわけ?
あまり期待もしなかったけど 少々哲学的というか 宗教的というか 生物学的というか 
そういうような高尚なものに絡んでいくかと思っていたよ
ところが全然なかったって訳ね
むなしさが大きすぎるよ
それでも時間が経てばまたそのことが頭の中を占有するんでしょ
おっわかっているね そのとおり
結婚して子孫を残すっていうのがいわゆる本能
的遺伝子のなせるわざなんでしょうけど 人間っていろいろある動物だから 直接使命的な衝動とは別な時にもその気になるのね それがいいとか悪いとかじゃなく
芸術、学問、経済みたいなものと違って 薄っぺらいそれでいて巨大な流氷のようにときとしてやってくるってことか なんの答えの用意もなく 品性もなく 結論的終わりもなく 風俗産業におおいに貢献するのみで やっぱり周期的にこの感覚は訪れてくるんだ
注文したアイスココアの生クリームが氷のうえに乾燥したかのようにへばりついている
彼女はさきほどからむしろそちらのことの方が関心の対象になってきていた