カフェにて �Y
扉をあけた瞬間 ああ昔ながらの喫茶だなと感じた  カウンターの他にはちいさなテーブル席がふたつ
奥の二人席にどかっと座る
普通ならマスターと話するためにカウンター席に腰を掛けるんだろうが こちらははじめてでそんなつもりもない
マスターもさすがにそのあたり心得ていてあえて話しかけてこない
実はだれも他にはいなかった
でも遠慮なくひとり自分の空間に浸っていた
モーニングサービスのゆでたまごは後からということだった
いそぎの用もなかったので別段かまわない
賑やかしにもうひとりくらい客が入って来ないかなぁと漠然とした希望はあったが
まぁそんなときほど誰も訪れて来ないものだ
たまごがやってきた
自分にとっちゃ客だった
めちゃあつ〜い!!
できたてだから仕方ないか
そういえばチェーン店ならこういう場合熱いので気をつけてくださいとか言うよなぁ
とか思いながら殻をむきはじめた
水で冷やしてくれたらと言いたくなるほど熱い
薄い膜もむいていくと殻の下からヌルっとまたねばっこい熱水が湧き出てきゃしゃな指のひらを直撃する  ウォーと口の中でうなる
ガマンゲームかこれは
マスター 配慮が足りんぞ!
だからこの店ひまなんだぜ
とも言えず ひたすら耐えてむき続けた
こんな苦労は久々だなどとほんの短い時間に次々と愚痴や非難が頭のなかに湧き出てくる
むき終わったときには達成感がこみあげ
食欲がおこるどころではなかった
でも折角だから食べる
こんな思いをさせたんだから うまくなかったらコーヒーのなかで溺れさせてやるぞ
と そこまではその時思いつかなかったが  まぁそういう状況には違いなかった
いつものように塩をふりかける
できたてのたまごは今までもみているが
少々期待できたのが表面がちょっと透明みたいな半熟っぽいおもかげがある
確かにプニョプニョとつるやかに柔らかい
ガブッと口に含み噛み口をじっくりみつめながらモグモグする
ふむ いけるじゃないの
断面は地球のごとく黄身の断層があり
中心部のコアは実際とは逆にドロドロと煮えたぎったマグマの様であった
イケルじゃん
これは言わねばならんなと思った
ちょうどそろそろ沈黙には飽きてきた
うまいね!できたては...
素直にそれだけ言えばよかったが それでは釜ゆで地獄のおもいをし今では感覚がなくなりつつあるかわいい我が指に申し訳なかったので
枕ことばに 「あついけど」とつけさせて貰った
そうでしょう!
待ってましたとばかりにマスターの逆襲が始まった