フランス惣菜の店のこと
広尾神社よりすこし手前に、花屋と並んで、
なにやら 洋風の青い「館」が出店しているのに
気付いたのはいつだっただろう。
店はドアノブの真鍮の金具も、まばゆいほどに新しく
まるで、フランスのパリの街角に
立ったと錯覚するほどその「館」は 輝いていた。
広尾という街を 自ら選んで住まい、すこしずつ
毎日の生活に慣れ親しんでいった わたしだが、
それでも その「館」の中に足を踏み入れることは
まだ、躊躇われた。
わたしは 子犬のリードを強くひき、目で店内を
そっと見やりながら、いつもやり過ごすのだった。