レカンの魔法 
食通、もしくはこの店の常連たちは 皆、この言葉を知っている。
それは、この店に一歩足を踏み入れたときから、
まるで魔法にかけられたように、その店の雰囲気に
魅了されてしまう、と言う例えである。
広尾に引っ越して二年目の秋、わたしは いつものように
子犬を散歩させながら、ずっと 天現橋の方まで
足を伸ばしていた。 帰り道、フランス大使舘を右手に、
駅へ向かう 緩やかに曲がった 坂道。
ここは すこしだけ、故郷の家のあたりを彷彿とさせる。
南麻布4丁目という標識が目にはいる。
広尾神社が ここにあることは 前年に知った。
部屋に、かつてのように 神棚も仏壇もない今の暮らしは
どこか 心もとない気がして、時ある度ごとに
この神社に参るのが いつのまにか習わしとなっていた。