2009年02月の記事


七つの蕾
冷え込む午後の雨のなか 病人の所望する「さかな」を買いに行く。

焼けたような黒土に 見事な枝振りの梅の林。

滴り落ちる雨のしずくに、香りもひんやりと僅かに届くのみ。

ようやく あらかじめ決めたものの買い物だけ済ませ

帰途は 急ぎ足となる。

「この道から行こうか」「それとも今日は。。」

思いのままに まっすぐの道を選んだ。

雨もすこし上がりかけて 傘を頭上に掲げて見る。

霧雨でも 体にあたるのはよくないので 再び傘を

おろし掛けた時、

視界に なにか 黄色いものが飛び込んできた。

近寄ると。。 垣根の土の青い芝のなかに

クロッカスのちいさな蕾が、

固く 祈るような姿で寄り添って 雨に濡れていた。

艶やかな蕾の表面に 雨粒は おおきく くっきりと

思わず 傘をそこへ投げ出して 抱きしめてやりたいような

風情だ。

数えると 七つ あった。

急に 明るい炎が点ったように 私の体も温かくなった。

病人のいうところの 「さかな」は 

煮魚でも 焼き魚でもない。。

高価な 口にあう食事を 病人のわがままのままに

いつまで わたしひとりで 供すことができるか

自信はない。

「もう限界」と 思う日も いまだにある。

けれど こうして 雨の日も 晴れの日も

外へ出て ひとり 風に吹かれているとき、

目に見えない速さで ゆっくりと うつろう季節を感じ

こころほぐされる ときもある。

ささやかな 穏やかな時間をみつめながら、

ことしも 桜の咲く日を待っている。
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