ブリキの金魚
新しいショッピングモールのとあるフロアに
ちょっとした民芸品を置く店が出展していた。
行灯のようなものから 小引き出し、大きな桐の箪笥など。
夏の風物詩の小物なども取り揃えられて、
楽しげなふんいきに設えてある。
わたしは 本屋を覗いた後、すこしこの店を眺める気になった。
ブリキに鮮やかな色を付けた「金魚」が わたしの目に
飛び込んできた。 盆ざるのようなものに 10匹ほど。。
ちょうど 手のひらに乗るおおきさで
手にとって 振ると なかの鈴がちいさく鳴った。
耳元にあてたり 両手にもって振ってみたりと
わたしは すっかり気に入ってしまった。
たしか、 昔 じぶんの家でもこんなおもちゃをたくさん
扱っていたことを ふと 思い出していた。
何日から何日までと 一定期間でのこのような出展は
おそらく 採算などの面で、非常に厳しいものがあるのかもしれない。
この民芸店も 所狭しと品物が並べられているだけで
店のひと、というのは にわか作りのレジに 男性が
たったひとり、見られるだけだった。
品物を自由に眺められるという利点はあるが、
なにか そっけないものも この店から漂っていた。
買おうかどうしようかすこし考えあぐねて、
わたしは 一匹だけ 「ブリキの金魚」を手に取った。
家に帰って気に入れば、 また 数匹買い求めてもよいと
思っていた。
品物を手に持ち、わたしは 暖簾の隙間から見え隠れする
店の店員に声をかけた。
あまり 大きな声を出すのは苦手なのだけど。。
男性は 売り上げの計上の計算のためか、ノートパソコンに
ずっと向かったままであった。
わたしは おずおずと 「これ、ひとついただけますか?」と
思い切って声をかけた。
店員は にこやかでもなく、むしろ すこし迷惑そうな感じにさえ わたしにはとれる面持ちで
わたしの 手の中の金魚を受け取った。
そして、 せかせかと紙袋にいれながら、わたしに
こう言ったのである。
「かんたんでいいですか?」
かんたん、と いうのはもちろん 「包装」のことであり、
わたしも 「普段使い」というか、 自宅用なので
かんたんでも いいのだけど、
意地悪をいうつもりは ないが、 わたしはとっさに
つぎのように答えていた。 すこし微笑みながら。
「ふつうで、 おねがいします。」

編集 十六夜 : これね、続きがあるんですよ。(微笑  できたら書きます。