反論せず
わたしは 父へ ここに書いたような言葉を いままで 言ったことはない。

怒りにからだを震わせても 奥歯を固く噛み締めて ひたすら 堪えてきた。

あさりさんに 『よほど 言い返してやろうかと思うこともあるの』と 打ち明けると 『だめよ それは言ったら絶対だめ。病気なのよ。病気がそう言わせているのだから ね?』と 優しくほほえむのだった。

この二日間 なにも答えず 屈せず 一切われ関せずと心を決め キッチンの整理や自分の仕事の準備に専念した。 大きな冷蔵庫は 父の部屋の近くにあり わたしはそれを遠ざけて 何も口にせず過ごした。 意地というのではなく ひとつの意思であった。

母のぱあい このように 父に強く出られ 追い詰められたとき 母は 父にお金を上げるために 内職を始めた。すでに肝臓がずいぶんと悪かったのに!


わたしも 昨年の夏と この冬 かなりハードスケジュールな仕事で 帰宅しても つききりになる父のために ろくな睡眠もとれず 疲労困憊していた。

『無理は 絶対にしてはいけない』 そのことを しっかりと自分に 言い聞かせた。

愛するわが父を 憎むことにならないためにも。