2004 12/05 00:45
Category : 001
■
《 (・・・)
「さようなら。海辺さん」と彼女は言った。
一瞬後に、
笑った三つの顔が奥のほうの窓からメルソーをみつめ、
黄金色をしたまるで大きな昆虫のような黄色いバスが、
光の中に消えていった。
(・・・)
こうした愛の香りと、
踏み潰され、香りを放つ果実を前にして、
そのときメルソーは、季節が傾きつつあることを感じた。
厳しい冬が身をもたげようとしていたのだ。
だがかれは成熟し、いまやそれを待ちかまえていた。
この道からは海は見えなかった。
けれども山の頂には薄い赤みがかった靄がみえていて、
それが夕暮れを告げていた。
(・・・) 》
= 『幸福な死』カミュ/高畠正明訳〈新潮文庫〉
■
自習室 午後3時
変色した 文庫本を開く
ページ番号についている 青いインクの 楕円
そして 2ページ後の数字を隠すように 折ってある
つぎのページ 耳
*
− 「ライ麦畑」を 読み返してみたんだ
− 10代の時と 40代の今とでは
止まり木で 語り合っていた 夕べ
旧友達の声が よみがえる
*
同じ時期 同じ季節に 同じ場所で 過ごしてた
しかし ライ麦畑とは 無縁に
太陽と浜辺
メルソーとムルソー に 気をとられていた
*
《 ・・・
これと似たような多くの夕暮れは、かれのなかでは、
かつては一つの幸福の約束のようなものであったので、
今日の夕暮れを幸福として味わうことは、希望から
征服へとかれが踏破したその道程をかれに推し測らせる
ものだった。
・・・ 》
*
這い出してくる
薄暮の食指
*
《 ・・・
マラルメの劇場装置の分析は、常に、
「夕辺、地平線が煌めく時刻となるや、
人類の内部に穿たれる」
「壮麗な穴、というか待望」、
つまり「〈不可能性の怪獣〉の頤がぱっくりと開く」光景を
喚起することではじまるのだった。
・・・ 》 〈渡邊守章〉
●
内なるカオス
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《 (・・・)
「さようなら。海辺さん」と彼女は言った。
一瞬後に、
笑った三つの顔が奥のほうの窓からメルソーをみつめ、
黄金色をしたまるで大きな昆虫のような黄色いバスが、
光の中に消えていった。
(・・・)
こうした愛の香りと、
踏み潰され、香りを放つ果実を前にして、
そのときメルソーは、季節が傾きつつあることを感じた。
厳しい冬が身をもたげようとしていたのだ。
だがかれは成熟し、いまやそれを待ちかまえていた。
この道からは海は見えなかった。
けれども山の頂には薄い赤みがかった靄がみえていて、
それが夕暮れを告げていた。
(・・・) 》
= 『幸福な死』カミュ/高畠正明訳〈新潮文庫〉
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自習室 午後3時
変色した 文庫本を開く
ページ番号についている 青いインクの 楕円
そして 2ページ後の数字を隠すように 折ってある
つぎのページ 耳
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− 「ライ麦畑」を 読み返してみたんだ
− 10代の時と 40代の今とでは
止まり木で 語り合っていた 夕べ
旧友達の声が よみがえる
*
同じ時期 同じ季節に 同じ場所で 過ごしてた
しかし ライ麦畑とは 無縁に
太陽と浜辺
メルソーとムルソー に 気をとられていた
*
《 ・・・
これと似たような多くの夕暮れは、かれのなかでは、
かつては一つの幸福の約束のようなものであったので、
今日の夕暮れを幸福として味わうことは、希望から
征服へとかれが踏破したその道程をかれに推し測らせる
ものだった。
・・・ 》
*
這い出してくる
薄暮の食指
*
《 ・・・
マラルメの劇場装置の分析は、常に、
「夕辺、地平線が煌めく時刻となるや、
人類の内部に穿たれる」
「壮麗な穴、というか待望」、
つまり「〈不可能性の怪獣〉の頤がぱっくりと開く」光景を
喚起することではじまるのだった。
・・・ 》 〈渡邊守章〉
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内なるカオス
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