その2
「……あれ〜〜? 此処何処〜〜?」
 天真とあかねがやや青ざめて視線を交わす中で、のんびりと詩紋が目覚めた。続いて、蘭が。
「お兄ちゃん……私たち、帰ってきたの……?」
 流石黒龍の神子だけあって、蘭はすぐに世界の違いを悟ったようだ。
「ああ、そうだよ、蘭。此処は俺たちの世界だ」
 蘭が目覚めたことによって、とりあえずほかの雑多な問題を蹴飛ばし、喜びに浸る天真。まだ現実に直面してない蘭も、嬉しげにその抱擁を受けている。
 うんうん、と頷きながら、ほんのりと涙ぐむ詩紋。
 そして。
「良かったねぇ、天真」
 にっこりと花笑みを浮かべる、左近少将。
「……友雅さん?」
 詩紋が素っ頓狂な声を上げた。
 そして、気付いたのである。自分と、仲間の今の格好を。

 振袖並みの長い袂にミニスカート、厚底サンダルも真っ青のぽっくり姿のあかね。髪をみずらに結い、着物だか甚兵衛だかよく解らない格好の蘭。自分は制服の上に直衣を纏い、天真にいたっては、原型がよく解らないほど着崩して、みょうちくりんな格好になっている。
 その上。
「どうしたんだい、詩紋? 妙な顔をして」
 ド派手な牡丹の模様がついた直衣の友雅。

「……あかねちゃん……」
 遅ればせながら、深刻な事態に気付いて、詩紋はすがる眼差しをあかねに向けた。しかし、あかねだって解決方法など思いつけはしない。
 何しろ、入学式早々にこのとんでもない事件に巻き込まれたのである。当然のことながら、例え教室に行った所で着替えはない。いや、それより籍があるかさえ怪しい。
 だからといってこの格好で往来を歩くのは。
(は、恥ずかしい……)
 想像しただけで真っ赤になる。ひとりでも恥ずかしいのに、同様なのが5人である。
 しかし、旅の恥は書き捨てだ(旅は終わったところではあるが) 無理やりそう思って帰ってもいい。より困難な問題はそこではない。
 この格好を親に見られたら、どれほど絞られるかも覚悟しよう。行方不明の間の言い訳なんかしようもないから、余計怒らせるのも間違いのないところだ。が、どれほど激怒したとしても、まさか、ようやく帰ってきたわが娘、わが息子を追い出しはすまい。

 だけど友雅は。

 一体全体、三十過ぎにして無職、この世界の常識知識などかけらもない上、就職に役立ちそうなスキルも見込めない、けれどあの京で培ってきた美意識と自意識は人一倍の少将様を、何処にどーやって収めればいいのだ〜〜。

 ……龍神様……片手落ちすぎる……。

 当のご本人を除く四人の脳裏には、期せず同じ言葉が浮かんだ。