「平成十六夜日記」
~ 新緑の候 ~

明治通りの桜が、すっかり緑色になり、
ビバルディの「夏」の章を思わすような風が
ときおり吹いてくる。
姉と母の誕生日も 近づいている。
地図で見ると ほんのちかくに見えるその場所が
こころの中では なんと
遠く 思えることだろう。
わたしの 姉への想いは 海の色のように
いまでも その日によって刻々と変わる
亡き父や母へのそれも 同様である。
あるときは 凪ぎ あるときは 突然 荒れ狂い
自分でも どうしたものかと 思い悩む
失われたものへの 思いは 果てなく 
永遠に 慟哭を止めないのだろう
それでも こころの海は しだいに
深く 大きく 穏やかなものになっていることだけは
確かである。
「みかんの花咲く丘」の歌の情景のように
遠くはるかに きらめく波をかいまみる日もある。
心静かに 思うとき、
すべてのことは 取るに足らないことであると同時に
それぞれの人生のなかで 一つ一つの想いは
どんな宝石の輝きより なんと尊いものだろう。
招かれたきらびやかな店で つぎつぎ差し出される
輝石(ジュエリー)を見ながら わたしは内心 落ち着かない。
もう わたしは 知ってしまったのだ。
家で わたしを待つ ちいさな四つの黒い瞳。
まっすぐに わたしをみつめ、
ただ わたしだけを 信じ、
わたしの 笑みや 苛立ちの表情に 一喜一憂する
彼らの純朴な 瞳の美しさに
替えられる 宝など この世にないことを。
寂しそうに 風に震えるように 咲いていた
姉の家の パンジーたちは いまも 美しく
咲いているだろうか?
電話を嫌い 「てがみでください」と 言った彼女に
わたしは あれから 一通の手紙も出していない。



『紫の匂い懐かしすみれ草 春爛漫の桜のふもと』 (十六夜)


いつも お読みいただきありがとうございます。
次回は 「薔薇のアーチ」です。  J.U

BGM:パッフェルベルのカノン

               

編集 十六夜  : ぶ~にゃんさま こんにちは。コメントありがとうございます。今日一日、明るいきもちで過ごしてください ^^ 
編集 boonyan : 十六夜さん こんばんわ~(^^;) 知っちゃいましたか(^^;) でも、命あるものはいつかはお別れしなければいけない日がきます~(*_*)