明け方の夢 
明け方の夢が 目覚めたあともずっと残っていて
わたしの心を覆い尽くしていた。

夢のなかでは 父と姉とわたしがいた。

父はきっと 病院から家に帰ってきたのだろう。
ベッドにはいたが元気そうだった。
現実には 一度もまだ 父のいる病院へ顔を出したことのない
姉が、その場に”あたりまえのように”いることが
目覚めてからのわたしを たぶん 苛立たせたのかも
知れない。

夢のなかに出てきた「家」は、
おそらく 昔 わたしたちがみなそろって住んでいた頃の家で
わたしの エレクトーンもあった。
そうして その楽器の周りに いろいろなものが散らかっており
それを不満に思うわたしが 姉になにか言っていたように思う。
けれども、それは まったく受け入れられなかった。

夢が覚めてから思ったことだが、
どんなに わたしが自立しようと、
「家族」というなかでは 順序としては
父、母(もうこの世にはいないが) 姉、わたし という
序列は 変えようがないことなのだ。
そして そのことは 当然のこととして
わたしも いままで 生きてきたと思う。

理不尽であるが、個人では変えることのできないもの。

抗えないもの。

夢からさめて、
今日が 「薮入り」の日ということに気づき
なんとなく、なぜ そんな夢を見たのか
わかるような気がした。

父も 姉も、
”あの家”へ
帰って きたのだろう。

では 母は?

わたしは、この部屋の電子レンジの上に置いた
割り箸で足をつけた 一頭のナスを見る。


夜、ぎりぎりまで思案して、
8時少し前に、 病院へ電話をした。
遅い時間だがとわびて、病院付けの社会保険福祉士の
部屋へつなげて貰った。
運良く 出たのはその方だった。
いくども 面談で父の今後のことについて相談に乗って
頂いている。
ゆうべは 自宅へ留守電がはいっていた。
「お姉さまからはなんの連絡がありませんので
お嬢様に連絡いたしました。」

ちょうど わたしもきのう 出先からこの方へ電話をいれたのだが、
あいにく みな席をはずしていて、
結局すれちがってしまっていた。

今夜の電話で 担当者は
「お姉さまの職場へ わたくしのほうからご連絡させていただいでも よろしいでしょうか?」と
切り出してきた。
「病院の立場として、ということで。」と 付け加えた。

わたしは 情をふりきるように答えた。

「やむをえないと思います。」