無言歌
萩の花が零れ落ちている石のベンチに

その日は ひとりのお年寄りが座っているのが見えた。

ひとりでいるのに あまりに馴らされているわたしは

突然 こんなふうに 「誰か」と 同じ空間を「共用すること」が

とても苦手だ。

わたしは その お年寄りとの距離が じゅうぶんに離れているにも拘わらず、すでに

なんとも落ち着かないこころもちになっていた。

けれど わたしは いつものように、その場所で

ゆっくりと さき撮影してきた画像を確かめたり、

いつも持ち歩いている自宅から淹れて来たコーヒーを

飲んだり、と 過ごすことにきめた。

そのあと、バッグのなかから TOEICの試験官のマニュアルを取り出し、

長い説明文を 声に出して練習したりした。