君が生まれた日のことを書こうね。
 「レカン」は 銀座4丁目の 御木本真珠の地下にある フランス料理店。

 わたしと、当時の夫とその母と、ある日食事をした。6月だったかな。。

 メインディッシュに何を頼んだのかは すっかり忘れてしまったけど

 今ではあまり珍しくもない 「ズッキーニ」を 義母が ボーイを呼んで

 「これはなんなの?」と 訊ねたシーンは よく憶えている。

 それと、ワインの 美しい花柄のラベルを 記念に持ってかえるため

 帰りまでに 剥してくれるよう わたしが頼んだことも。

 そして、ワゴンで運ばれてきた 色とりどりのデザートの宝石のような美しさも。


 すっかりわたしたちは 幸福な気分で帰途についた。

 その帰り道、電車のなかで わたしは急に 胸のあたりに「吐気」を感じた。

 「おかしいわね、そんなにワインもたくさん飲んだはずはないのに。」

 だんだん 蒼ざめてくる自分の顔色に とうとうわたしは 夫に訴えた。

 「なんだ 飲みすぎか?」とか なんとか 言ったかどうか。。

 憶えているのは 傍らで 義母が なにやら 「にこにこ」していたこと。

 やがて、なんにちかして 近くの産婦人科を訪れたわたしは

 そこで 君を懐妊したことを 知ったのだ。

 病院の帰り道 立ち寄ったデパートのエスカレータに乗りながら

 なにか ふわふわした 夢心地のような気分だったのを、今も鮮明に憶えている。

編集 十六夜 : 夢心 ゆめごころ、かな? いい言葉ですね。 
編集 ひろ : 妻が妊娠して、自分が父親になるときも夢心を持つ、よく感動しました。十六夜様もそうでしたね。