混浴露天風呂−もう一つの世界
書く必要がなかったからふれなかったけど
宝川温泉では、若い人達に混じって
一組だけ老夫婦がいた

夫婦というのは俺の思い込みで
その趣や感じからみて
ひょっとしたら愛人であったり、内縁関係かもしれない

平日の月曜日で、きっとジジババばかりで
若い人、特に女の子なんかいないだろうと諦めていた俺にとって
あにはからんや
高齢者は、そのたった一組だけだったからよく覚えている

小さいおばあちゃんは、頭と胸から下をタオルで包み込み
まるで乙女のように恥じらいながら
濡れた岩場で転ばぬよう
白い髭のおじいさんに手を引かれ
二人で仲良くお風呂に入っていた

想いをよせた異性に
初めて自分の裸体を見られたときのような
恥じらい、照れ、はにかみ
それを見つめるじいさんの、♪「孫」にでてくるようなえびす顔

許されるなら、写真を撮りたかった
だが、旅の恥はかき餅の俺ではあるが
それはためらわれた

若いカップル達に負けるどころか
いや、それ以上の、二人だけの世界が
そこにあったからだ
俺は邪魔はできない


こんな風に、歳月を重ねていきたいもんだ