拉致・・・
【主張】拉致被害者 全員生存の前提で交渉を
2007.10.10 03:43

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 先の南北首脳会談で、北朝鮮の金正日総書記が「日本人拉致被害者はもういない」と韓国の盧武鉉大統領に語ったと伝えられている。到底受け入れられない発言である。

 北は平成14年9月の日朝首脳会談で、横田めぐみさんら10人の拉致被害者について「8人死亡、2人不明」とする一方的な報告を出してきたが、7人の死亡診断書が同一病院で発行されていたり、墓がほとんど水害で流されたとするなど矛盾や疑問点に満ちていた。その後、16年5月の2回目の首脳会談で、金総書記は「白紙からの再調査」を約束した。

 しかし、北が出してきた再調査結果は、日本側が指摘した疑問に答えるようなものではなく、めぐみさんのものとする遺骨は日本側の鑑定で別人のものと判明した。これらをうやむやにしたままでの幕引きは許されない。

 めぐみさんは最初の北の報告では、「1993(平成5)年3月に自殺した」とされたが、「95年に金総書記の息子の家庭教師をしていた」(亡命者)との情報がある。「79年に海水浴で溺死(できし)した」とされる市川修一さんを「94年に北朝鮮の大学で見た」(元工作員)という目撃証言もある。

 現在、日本政府が認定した拉致被害者は17人に増え、12人が帰国していない。福田内閣は、12人全員が生きているという前提で、北との交渉を目指すべきである。北が「生きていない」と言うのなら、死因や遺骨、遺品、墓の状況など、被害者家族や日本国民が納得できる説明が必要である。

 福田内閣は9日の閣議で、13日に期限切れを迎える日本独自の対北経済制裁をさらに半年間延長することを決めた。1年前に発動した経済制裁は、北の地下核実験に対する措置だが、拉致問題での誠意ある対応も求めている。拉致問題で進展が見られない以上、再延長は当然の措置である。

 制裁の中身は、万景峰号など北朝鮮籍船舶の入港禁止や高級食材の輸出禁止などだ。米朝接近ムードの中で、日本独自の経済制裁の効果を疑問視する声もあるが、金正日政権がほしがる日本の金や物が直接、北へ渡らないことは、間違いなく打撃を与えているとみられる。福田内閣は、北に対して圧力に重点を置いてきた安倍内閣の外交姿勢を堅持すべきである。