子どもの空間:/8 やめたいねん たばこ吸っても意味ないし
たばこ吸っても意味がない。息が切れる。でもやめられへん。

 オレは中学2年生。まじめやないけど、ワルでもない。吸い始めてもう4年半。

 名前はショウノ。14歳。晴れた6月の放課後、校舎の裏であいつと一服した。「おまえら何してんだ!」。もみ消したけど、遅かった。

 一緒に見つかった「あいつ」は親友のイッペイ。奈良県の同じ中学の2年生、同じ団地に住んでいる。

 たばこがばれた昨年夏、先生に禁煙外来の受診を勧められた。禁煙はしてみたけれど、つい「一服しよう」と誘ってしまう。イッペイは断ってくることもある。やっぱり吸わん方がいいのかな。

 最初は小学4年の時、上級生に誘われて。1本吸いきるころには、もううまかった。それから1日2箱。家のたばこをかき集め、吸い殻は兄貴(21)の灰皿に捨てた。

 オレが禁煙してるのに、オヤジ(43)もオカン(40)も、目の前でスパスパ。工場で働くイッペイの両親も、どうやら同じらしい。

 学校はつまらん。あいつとはクラスが違う。教室に話が合うやつはいない。

 2年生になって、数学も国語も授業が分からん。居眠りすると先生が「起きとけ!」と怒鳴るから、時々教室を抜け出して、廊下でチャイムを待っている。

 けんか好きのイッペイは、先生にも手をあげようとする。「暴力だけは、やめとけ」。あいつにそんなこと言えるのは、オレしかいない。

 小学3年か4年の夏だった。自転車で飛ばしていて、あいつの自転車とぶつかった。「大丈夫か?」。転んだオレに声をかけ、あいつは心配してくれた。あの日は雨が降っていた。

 そのころオレには友達がいなかった。体が小さくて、年上の子に石を投げられた。あいつといるようになって、それがなくなった。イッペイは中国生まれの日本育ち。空手が得意でけんかは誰にも負けない。

 放課後はさっさと家に帰り、晩飯を食べ、あいつの家に遊びにいく。テレビゲームはオレのほうがうまい。

 「おまえ、おっきくなったら、何すんの?」

 「結婚はしとこかな」

 いつも一緒だから、携帯もメールも必要ない。他のやつらが使っていても、うらやましくも何ともない。

 最近は塾に行くやつもいて、クラスはちょっとぴりぴりしてる。オレは受験はしたくない。トラック運転手のオヤジは「高校行かないなら働け」と言う。「ラーメン屋なら、やる」と答えておいた。オヤジは熱出しても仕事に行く。そんなこと、オレにできるんかな。

 また吸いたくなってきた。胸をたたいて自分に怒鳴る。「黙れ、このボケ!」。麻薬と同じようなもんなのかな。

 今年こそ、やめてやる。あいつは言う。「はよやめてくれ。おまえがやめたら、オレもやめる」。そうだ。どっちか早死にしたら、オレたち一緒にいられへん。【遠藤拓】=つづく

 ◇中1女子で経験1割

 厚生労働省の04年度統計で、中高生の喫煙経験率は高3男子が最も高く42.0%、最も低い中1女子でも10.4%。子どもは大人よりニコチン依存になりやすいが、学校や家庭が喫煙の事実を隠したがるため、禁煙外来を訪れる子は多くない。未成年者喫煙禁止法は子の喫煙を見逃した親に科料を科している。

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毎日新聞 2007年1月9日 東京朝刊