2005年12月
2005年12月28日

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家賃の値下げ
隣室の家賃は我家より2万円安いので、
                  家賃の値下げを要求したいが



  15万円でマンションを賃貸し、2度更新しました。最近隣に入居した人の家賃は、広さ間取りも、内装のグレードも同じなのに13万円だと知り納得できません。今度の契約更新の際に家賃の減額を要求しようと思っています。

 (答) 現行家賃に納得がいかない場合、家主に対して家賃の減額を請求する手段はある。
 借地借家法32条に次のように規定している。
 「借主は、建物の税金・価格の減少、その他、経済事情の変動により、近隣家賃相場と比較して不相当になった時は、契約の条件に拘らず、家賃の減額を請求することが出来る」(32条1項の主旨)

 賃貸契約は家主と借主の一定の賃料で合意することで成立する。期間が経過し経済状況が変化すれば、継続家賃が近隣の家賃と比較して「不相当」になっているということは在り得る。その場合の、家賃の改定は、先ず当事者間の協議で決定するのが基本になる。

 しかし、家主が借主の減額要求に応じないで協議が調わなかった場合、借主は借地借家法32条に基づいて内容証明郵便で家賃減額の意思表示を明確にした上で、調停を申し立てる必要がある。調停で当事者間の合意が出来ない場合は裁判が必要になる。

 裁判になった場合は、適正家賃額を定めるための鑑定が必要となり、その費用として30〜35万円(双方で分担)程度の経済的負担を覚悟しなければならない。

 係争となった場合、賃借人は減額請求をし、減額を正当とする裁判が確定するまで、従前の家賃を支払う必要がある。一方的に減額した家賃しか支払わないのは危険である。不足額の支払いを請求され、家賃の一部不履行による契約解除、建物明渡しを要求される恐れがある(東京地裁1998年5月28日判決)。

 後日、裁判で減額が確定した場合、払い過ぎがあれば、減額請求した日まで遡って、その差額に1割の利息をつけて返還を求める事が出来る。(借地借家法32条3項)

 賃料減額請求は、請求者の意思表示が相手方に到達した日の分から、その効果が生ずる(最高裁1970年5月6日判決)。

 減額請求の起算日を確定するためにも減額請求は、内容証明郵便で配達証明付にする必要がある。

 結論、家賃改定は当事者間の話合いで合意するのが基本である。


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2005年12月27日

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住宅金融公庫の廃止で(2)
 住宅金融公庫の廃止で借地人の増改築が不可能になる場合も 
                      承諾書要求は悪しき慣行に過ぎない



 (問) 
 住宅金融公庫の廃止は、借地人に何か影響があるのか。

  (答)
 住宅金融公庫廃止で浮上したのは、借地権と担保の問題だ。住宅金融公庫は、原則的に借地上の建物に抵当(担保)権を設定する。しかし、地主が反対した場合、地主の承諾書を免除し、融資の道を拓いている。

 民間金融機関は借地人の建物を担保にすることに固執し、地主の承諾書を飽くまで要求するので地主が反対すれば借地人への融資の道は塞がれる。
 その結果、公庫が廃止されると借地人保護条項の借地借家法17条の借地非訟制度が空洞化されるという重大な問題へと繋がる。即ち、建築資金不足の借地人は、増改築制限特約があり、且つ地主が反対した場合、増改築出来ないという重大な問題が発生する。

 民間金融機関は地主の抵当権設定承諾書に拘泥する。だが、この借地人泣かせの地主の承諾書要求は単に民間金融機関の悪しき実務慣行でしかない。

 借地人は融資の担保として、�@団体信用生命保険と�A火災保険の質権設定を要求される。�@と�Aは強制加入が義務付けられている。�B保証協会の保証も要求される。借地人は担保のために多大な保険料と保証料を負担している。
 借地人に問題が起これば金融機関は�@�A�Bから保証され実害は無い。依って、建物を担保にする必要性は無い。単なる実務的慣行で行なわれているのだから廃止しても何ら実務的影響は無い筈だ。

 政府は公庫を廃止する前に先ず民間金融機関に対して、地主の抵当権設定承諾書を要求する悪しき実務慣行を即刻廃止する措置を講ずるか、地主が抵当権設定に反対した場合は、公庫並に地主の承諾書を免除する措置を金融機関に対して行政指導するのが筋である。

 借地人の権利確立を目指すのであれば、従来法務省が検討していた「借地権の担保化」を法的に具体化する。
 例えば、借地人の地主に対する借地権登記請求権を法的に認め、借地人の権利として明確化する。借地権登記を借地人が自由に行なえる権利とする。

 そうすれば、借地権に抵当権設定を―地主の承諾を得ずに―借地人の権利で自由に行なえる。これによって借地権の担保化が具体化する。増改築問題の懸案は解決するし、借地人の融資問題に道を拓くことになる。


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2005年12月24日

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住宅金融公庫の廃止 で (1)

 
住宅金融公庫を2007年4月1日に廃止する法案が2005年6月29日の参院本会議で自民・公明・民主の賛成多数(反対は共産・社民)で可決成立した。

 住宅金融公庫は2007年4月1日以降、新たに独立行政法人「住宅金融支援機構」として発足し、銀行などが融資した住宅ローン債権を買い取って証券化することが主な業務になる。住宅ローンを小口に証券化して市場で販売する支援業務が中心になり、公庫が実施してきた個人向け住宅への融資は原則的に廃止される。

   果して、住宅金融公庫が廃止されると借地人に悪影響が出るのか

 例えば、地主が借地人の増改築に飽くまで反対した場合、建築資金不足の借地人の増改築は事実上不可能になるという問題が発生する。理由は、民間金融機関は融資の条件として借地人の増改築建物に抵当権を設定し、その地主の承諾書を必ず要求する。地主は増改築に反対しているのであるから勿論、承諾書に判子を押さない。当然、地主の承諾書が無いので増改築の融資は打切られる。

 しかし、公庫は地主が反対して承諾が得られない時は、地主の承諾書を免除する措置がある。即ち、地主の抵当権設定承諾書が無くても公庫は、借地借家法17条による借地非訟手続きで裁判所の増改築の代諾許可の決定を得れば、現在はそれだけで建築資金の融資は受けられる。

 建築資金不足の借地人にとって、公庫廃止の影響は借地人保護条項である借地借家法17条の形骸化に繋がる。その結果、借地人は地主の地代値上げ・更新料・承諾料等の不当な要求に諾々と従わざるを得ない情況に追込まれる。

 だが、借地人泣かせの「地主の承諾書」要求は、法的根拠に基づくものではなく、単に民間金融機関の悪しき実務的慣行に過ぎないという事実は重大である。


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2005年12月23日

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網入りガラスの破損
陽当りのよい南側窓の網入りガラスの
                  自然破損は施工不良と考えられる



(問) ベランダの網入りガラス2面の破損代金を請求されています。自然にヒビが入ったのでも、弁償しなければならないのでしょうか。

(答) 網入りガラスに何もしないのにヒビが入ったという経験をした人、現在ヒビが入っているという人は結構多い筈である。普通、ガラスに物が当って割れる場合はぶつかったところから放射状に亀裂が入る。

 ところが、自然にヒビが入いたと考えられる網入りガラスは、陽当りのよい部屋の南側に位置している筈である。そして、ヒビはガラスの下部に集中。このヒビ割れはガラスの端から始まり、次に90度の方向に曲線を描いて割れるという特徴がある。このような状態にヒビ割れていたら、それは金属とガラスの熱膨張率の差から自然にヒビ割れが生じたものである。

 また最近、結露や雨水が下方のパッキンの中に溜まり、鉄製の網の錆による体積の膨張も原因の一つと考えられるようになっている。近頃業者は、網入りガラス交換に際し底面と下方側面に防水テープを貼っている。これは切口の網部分からの水の滲入を防ぐためである。熱と錆二つの理由が競合していると考えるのが合理的であろう。

 質問者と同様の問題で争われた保土ヶ谷簡裁の判例(1995年1月17日)がある。
「網入りガラスは切断する際に網も切らなければならないために切り口に傷がつきやすく、そのため端部の強度が網のないガラスの半分程度に落ち、より小さな温度差で割れが起こり易いこと、熱割れの特徴は必ず端部から生じ、しかも端部に直角に生じること、本件建物の窓ガラスの破損は右熱割れの特徴に符号するものである」。

 網入りガラスは熱膨張により破損し易いと認定し、賃借人がガラスを破損したということを認めるに足りる証拠がないから、賃借人が窓ガラス破損の責任を負う謂れはないと判示している。ガラスの破損は貸主の負担すべきものとして、借家人の金銭的負担を免除している。

 ヒビ割れの根本原因は、網入りガラスの切口の錆止め対策不備に因るものである。錆の拡大がなければ、熱膨張だけではガラスの亀裂は起こり得ない。

 結論、判例などからも相談者は網入りガラスの破損代金を払う必要はない。


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2005年12月22日

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地代の増額請求に時効はあるのか 
13年前に地代の値上げを請求されたが
                 地代の増額請求に時効はないのか



(問) 平成2年4月地主から大幅な地代(5月分から)の値上げを要求され、以来、地代を供託している。ところが、平成13年10月、地代の再値上げを通告され、加えて、平成2年5月分からの差額地代についても請求された。地代の増額請求に時効はないのでしょうか。

(答) 増額請求権は形成権であるから貸主の増額する旨の一方的意思表示(増額の申入れ)が借主に到達した時に以後相当額に増額されたことになる(最高裁判昭36年2月24日)

地代家賃の増減請求権(借地借家法11条・32条)は、建物買取請求権、解除権等と同じく請求権者が相手方に対して地代等を増減する旨の意思表示をすれば、相手方が承諾しなくても、値上げ値下げの効果が発生する権利である。

形成権は権利者の一方的行為によって法律関係の変動(発生・変更・消滅)を生ぜしめうる権利であるという。学説の多数は、形成権の期間制限の規定は時効期間ではなく除斥期間を定めているものとしている。

地代・家賃の増減請求権は、条文上期間の制限がない。期間の定めのない形成権については、それぞれの権利の性質に応じた除斥期間に服するとされている。地代家賃等の賃借料は民法169条(定期給付債権の短期消滅時効)により5年で消滅時効になるので、増減請求権の除斥期間は5年となる。 即ち、貸主の値上げ請求のあった日から5年で請求権は消滅する。

 このように賃料増減請求権の行使に時間的な制限を加えて期間の限定を設ける。これによって、権利を有しながら長期間無為に行使しない「権利の上に眠る」貸主に、請求権行使に5年という枠を嵌め、裁判制度を使って短期に問題解決の決断を促すという点ではメリットがある。

 しかし最高裁判例は形成権にも消滅時効は成立するとしている。そして賃料増減請求権は5年で消滅時効が成立する(大阪平12年9月20日・東京昭60年10月15日・名古屋昭59年5月15日)と各々の地裁が判決している。

 結論、判例によれば、質問者の増額地代の差額分は平成2年5月から平成8年9月分に関しては既に消滅時効が完成しているので6年6ヶ月分の賃料債権は消滅したことになり、支払う必要はない。


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2005年12月21日

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短期賃貸借廃止
 2004年4月1日で短期賃貸借は廃止された。
                     居住と営業は大丈夫か



 民法395条の短期賃貸借保護制度は、抵当権付不動産が競売で落札され、所有者が代っても短期の賃貸借契約であれば、そのまま契約の期間内は使用し続けることが出来るという制度である。賃借人の不安定な居住権を最低限保障するものである。

 しかし、政府与党は不良債権処理を急ぐ金融機関支援のために短期賃貸借保護制度を廃止した。民法395条は次のような趣旨に改定された。(注)
 �@抵当権に後れる賃貸借はその期間の長短に拘らず抵当権者(買受人)に対抗することが出来ないものとする。これによって買受人は敷金の返還義務を負わないことになった。
 �A建物の明渡猶予期間は買受人の買受時より6か月間とする。
 �B1か月以上の家賃を滞納し催告がなされても支払が無い場合は�Aを適用しない。
 �@は不動産に関する権利の優劣を対抗要件の具備の先後で決する民法の原則に従うものである。

 だが、フランス・ベルギー・ドイツ等の法律では、抵当権の設定の有無に拘らず、賃借権は買受人に引継がれ保護される。賃借権は買受人に対抗出来るのが原則である。「抵当権は賃借権を破らない」というのがヨーロッパ法の原則である。

 日本の民法は原則と例外規定が逆転している。借家人の居住と営業を守るためにも正常な賃借権は抵当権の有無に拘らず保護されなければならない。

 (注)(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
  第395条 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
 一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者  
 二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
2 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその1箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。


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2005年12月20日
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大震災で借家が全壊した
 大震災で借家が全焼・全壊した場合
                 借家人にはどんな救済措置があるか



(問) 福岡西方沖地震、新潟県中越地震と大災害が続いている。もしこのような大災害に遭遇した場合、借家人にはどのような救済措置があるのか。

(答) 2004年10月23日の震度6強の新潟県中越地震に対して2005年4月15日政令で長岡市、小千谷市等の7市3町村に「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下処理法)が適用された。
 一般的には借家している建物が火災、地震、台風等によって「全焼・全壊」(滅失)してしまうと借家権は消滅する。しかし大災害に対して「処理法」が政令で適用されると震災で建物が滅失しても借家権は消滅しない。

   再築後の建物の優先賃借権
 罹災借家人は土地所有者或は借地人が罹災跡地又は換地に建物を再築した場合、その完成前に借家契約の申し出をすると他の者に優先して賃借することが出来る。建物所有者は自己使用その他正当事由があり、且つ申し出日から3週間以内に拒絶の意思表示をしないと承諾したものとみなされる(14条)。

   土地賃借権の優先的取得
 罹災建物に居住していた借家人は、建物を自力で復興させる場合、政令施行の日から2年以内でそのたてものの敷地・換地に借地権が無い場合に土地所有者に借地の申出をすれば他の者に優先して相当な借地条件で賃借することが出来る。
 土地所有者は、先記の申出を受けた日から3週間以内に拒絶の意思表示をしないと承諾したものとみなされる。土地所有者は自己使用などの正当事由が無いと申出を拒絶出来ない(2条)。

   借地権の優先的譲受け
 罹災建物の敷地またはその換地に借地権が存在する場合は罹災借家人はその借地人に対し政令施行日から2年以内に借地権の譲渡の申出をすると他の者に優先して相当な対価でその借地権を譲り受けることが出来る。
 借地人は自ら使用する場合その他正当事由があり、且つ譲渡申出の通知を受けた日から3週間以内に拒絶の意思表示をしないとその申出を承譲したものとみなされる(3条)。

この場合にはその譲渡について土地所有者の承譲があったものとみなされる(4条)。

 処理法適用下の借地期間は借地借家法の規定に拘らず10年に法定される。10年未満は期間を定めないものとみなす(5条)。当然更新(法定更新)が出来る。


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2005年12月19日
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火災の損害賠償を請求された
 消火活動による放水被害の損害賠償請求をされたが
支払う必要はあるのか



(問) アパート2階の一室を賃借していた。食事の準備中に鍋の油に火が入り、借室の一部が焼けてしまった。その時の消火の放水で1階が水浸しになり、家財道具に被害が発生した。家主・アパート居住者から損害賠償を請求されているが、支払う必要はあるのか。

(答) 一般的には故意・過失によって他人の権利を侵害した場合には、不法行為による損害賠償の責任を負う(民法709条)。しかし失火の場合は、重大な過失がない限り民法709条の規定は適用されず、民事上の損害賠償の責任を負わない(失火ノ責任ニ関スル法律)。重大な過失は具体的には油をガスコンロにかけ、その場所を離れていたために油に引火して火災になった場合である。

 借家人は賃借している建物をその建物の用方に従って、また善良なる管理者の注意をもって使用する義務を負っている(民法616条・400条)。これを借家人の「用方遵守義務」といい、建物を失火によって焼損させることも用方遵守義務違反で債務不履行になる。

失火責任法は民法709条の適用を排除しているだけで、契約関係に基づく債務不履行には適用がない。従って借家人は失火の場合、重過失がなくても過失があれば、家主に対して用方遵守義務違反として債務不履行による損害賠償責任を負う。

 問題は家主が蒙った火災の損害をどの程度賠償しなければならないか。
下級審の判例の多数に従うと、アパート等の「共同住宅の部屋の賃貸借において、当該賃借部屋、廊下等の部分、その他の階下の部分に対する損害についても賠償をなすべき義務がある」(東京高判1965年2月18日)として延焼部分の損害についても賠償責任を負うとされている。 また家主は損害賠償の請求に消火活動によって蒙った損害も含めることが出来る。

 結論、家主の損害賠償請求を拒絶するには質問者の無過失の立証責任が必要である。これが出来ない場合は家主に対する損害賠償責任は免れられない。また質問者は重大な過失がない限り、アパートの居住者に対しては失火責任法の適用があるので損害賠償の責任を負わない。アパートの居住者は、家主及び質問者への損害賠償請求は出来ない。従って被害を蒙った家財は自己負担で修繕せざるを得ない。


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2005年12月18日
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自然損耗を含む借家の原状回復特約
 自然損耗回復費用は借主の負担という特約は
                     消費者契約法で無効になる



(問)
 契約書に「賃借人は故意・過失を問わず、本物件に毀損・汚損・その他の損害を与えた場合は、賃貸人に対して損害賠償をしなければならない」旨の特約条項がある場合、自然損耗の回復費用も借主が負担しなければならないのか。

 (答)
 判例によっては特約を結んだ場合、自然損耗分も借主負担とされるものがある。それは、次の要件を満たしている場合である。
 �@特約の必要性があり、且つ暴利的でないなどの客観的合理性が存在すること
 �A借主が修繕等の義務を負担することを認識していること
 �B借主が義務負担の意思表示をしていること、
 以上の条件が満たされない場合は貸主負担となる。

 例えば、賠償特約に対して借主の「帰責事由の有無を問わずに賠償責任を負うべき旨を定めたものであるならば、その限度で賠償特約の効力は否定されるべきである」(名古屋地方裁判所1990年10月19日判決)として特約自体が無効であるとしている。 

 判例の多くは、通常使用によって生ずる損耗や経年変化による損耗等の自然損耗を損害賠償の範囲から除外し、特約があっても自然損耗の回復費用は貸主が負担する義務があるとされている。

 2003年6月30日大阪地裁では、自然損耗の回復費用を借主に負担させる特約を公序良俗違反で無効であるという画期的な判決があった。

 更に2003年11月21日大阪高裁で兵庫県住宅供給公社に対して自然損耗費用を借主負担させる特約は無効として回復費用の全額返還を命ずる判決があった。

 相談者の契約が2001年4月1日以降のものであれば、消費者契約法10条で賠償特約は無効になり貸主の全額負担になる。消費者契約法10条では次のように書かれている。「民法第1条第2条に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」
  民法606条1項は貸主の修繕義務を定め、通常の使用による自然損耗は貸主の負担とするのが民法上の基本原則である。特約で自然損耗を借主の費用負担にすることは民法の原則に反して消費者である借主の義務を加重する条項である。
 借主に一方的に不利益な特約で、明らかに消費者契約法10条に違反し無効である。従って貸主が自然損耗の回復費用の名目で敷金から差引くことは許されない。


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2005年12月17日    
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借地の無断転貸で土地明渡請求をされても
    契約解除権は10年で消滅時効になる



(問) 15年前に借地の一部を地主の承諾を得て隣の精肉会社に貸した。精肉会社はそこに軽量鉄骨造りの倉庫を建てて現在も使用している。
 ところが今回地主が死亡して相続人から地代の大幅値上げを請求された。その請求を断ると、無断転貸を理由に土地明渡し請求が内容証明郵便で送られて来た。どうしたらいいのか。

(答) 相談者の場合は、地主の承諾を得て転貸していたのだから先代の地主からは何のクレームもなかった訳である。相続人の無断転貸は言い掛かりに過ぎない。

  民法612条は賃借人は賃貸人の承諾が無ければ賃借権を他人に譲渡したり、賃借物を転貸することが出来ないと定めている。賃借人がこれに反し転貸した時は、賃貸人は契約を解除することが出来る。

 問題は長期間契約を解除しないで放置していた場合、解除権は消滅時効にかかるのかということである。

 消滅時効は、一定期間権利が行使されなかったことによってその権利が消滅するものである。
 最高裁(1987年10月8日判決)は「賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終止させることができる形成権であるから、その消滅時効については債権に準ずるものとして、民法167条1項が適用され、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは時効によって消滅する」としている。
 消滅時効の起算点については転貸借契約が結ばれて転借人が土地について使用収益を開始した時から消滅時効は進行するとしている。

「時効による権利消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるもの」(最高裁1986年3月17日判決)として援用を停止条件としている。

 これは時効によって利益を受ける者が時効の成立したことを主張しなければならない。この主張を援用という。時効期間が経過することによって権利の得喪は生じるが、未だ確定的ではなく、援用によって初めて権利が確定する。換言すると、10年が経過しても借地人は消滅時効を、転借人は取得時効を援用しない限り、地主は無断転貸を理由とした明渡請求が出来ることを意味している。

 相談者の場合は既に10年の消滅時効期間を満たしている。内容証明郵便で地主に対して時効の援用をすれば、消滅時効は完成する。


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2005年12月16日

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建物の修繕・リフォーム
増改築禁止特約があっても改良工事(リフォーム)や修繕
に承諾料を支払う必要はない



(問)
 借地上の建物の修復工事とリフォームを考えている。地主に承諾料を支払わないと工事は出来ないのか。内訳は外壁の亀裂の修理、屋根の葺替え及びベランダ・風呂場・台所のリフォーム。尚契約書には増改築特約がある。

(答) 
 市販の借地契約書や不動産仲介業者が使用している契約書には「建物の増改築をする場合には事前に賃貸人の承諾を受けなければならない」という条項が挿入されている。これに違反した場合、地主は催告を要しないで借地契約を解除する旨の特約を無断増改築禁止特約と言う。しかし、常に借地人がこの契約条項に拘束されていては借地の利用が制約されてしまう。

 そこで増改築の承諾を巡る当事者の協議が調わない場合は裁判所が借地人の申立てにより、その増改築についての地主の承諾に代わる許可を与えることが出来る(借地借家法17条)。これにより地主が増改築禁止特約を盾に増築や改築を認めない場合でも裁判所の代諾許可を得れば適法に増改築が行える。

裁判所の許可の手続きをしないで無断増改築を行った場合、直ちに契約解除が認められるのか。

判例は「賃借人が賃貸人の承諾をえないで増改築をした場合において、増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸借に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは賃貸人は特約に基づき解除権を行使することは許されない」(最高裁1966年4月21日判決)としている。

つまり、無断増改築であっても、地主に対する信頼関係を破壊する恐れがあると認められない場合は契約の解除は出来ない。総ての増改築について地主の承諾が必要という訳ではない。

 それでは地主の承諾なしに増改築出来る範囲はどの程度なのか。

前記最高裁の事案では、家族が居住していた2階建建物の一部の根太と2本の柱を取替え、2階6坪を14坪に増築し、外階段にして2階全部をアパートにして賃貸にしたケース。この程度なら地主の解除権は認められない。 既存建物の維持・保存に必要な通常の修繕修復工事や建物のリフォームが増改築禁止特約に触れないと言うことは勿論のことである。


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2005年12月15日

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固定資産課税台帳公開
地代家賃の値下げに強い味方
  固定資産課税台帳を借地借家人へ公開



 2003年4月1日から借地人・借家人等は、都税事務所で固定資産課税台帳の�@閲覧及び�A評価証明書の交付が受けられるようになった。

 交付を受ける場合、借地・借家人等であることを確認出来るものを持参する必要がある。例えば、賃貸契約書や賃借料の領収書等である。念のため身分証明書(運転免許証・健康保険証等)も持参した方がよい。
代理人の場合は他に委任状が必要である。電話による委任確認に備えて委任者の電話番号も控えていった方がよい。東京都の場合申請手数料は、�@300円・�A400円である。

 閲覧・証明の申請書には、土地の場合登記簿の地番、家屋の場合は家屋番号を書くようになっているが、住居表示と納税義務者(地主・家主)の住所と氏名を書込めば検索してくれる。
�@も�A固定資産課税台帳の記載事項をプリントしただけのものであり、内容的には同一だが、�Aには公印が表示される。

 固定資産課税台帳に記載が法定されているのは、課税標準額である。相当税額を記載するか否かは市町村の判断に任せられているで、自治体によって対応に差異がある。

東京都内23区の場合は、税額は記載されていない。ただし、固定資産税と都市計画税の課税標準額は記載してあるので、記載されている「課税標準の特例額」に固定資産税は1.4%、都市計画税は0.3%を掛算すれば年間の相当税額になる。

  具体的な地代の算定方法は、ブログ版台東借地借家人組合内の「適正な地代算出方法は」(2005年6月4日)を参照して下さい。


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2005年12月14日

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更新手数料を請求されたが 
貸主が依頼した宅建業者の更新手続に対して
報酬支払義務があるのか




(問) 借家の賃貸借契約を更新する際、貸主に委託された不動産業者の仲介で契約の更新手続が行われた。その際の更新手数料(家賃の半月分)を不動産業者から請求された。支払わなければならないのか。


(答) 借家の賃貸借契約が期間満了した場合、合意で契約を更新する。その際に不動産業者(宅建業者)が賃貸人と賃借人の間に入って契約の更新手続を行うことが日常的になっている。この場合、宅建業者は更新手続の依頼者に報酬を請求出来るのは勿論であるが、直接依頼していない者に対しても報酬の請求が出来るのか。

 「宅地建物取引業者は商法543条にいう他人間の商行為の媒介を業とする者ではないから、商事仲立人ではなく、民事仲立人である」(最高裁1969年6月26日判決)と言われている。

民事仲立人とは、他人間の商行為以外の法律行為の成立に向けて尽力する事実行為であり、他人間の商行為の成立を目的とする商事仲立と区別される。民事仲立については明文の規定がなく学説・判例は一般に民事仲立を準委任と解している。従って宅建業者の行う媒介行為は民法上の準委任関係になる。宅建業者が当事者に報酬を請求出来るのは媒介に際して委任を受けた当事者に限られる。

 しかし宅建業者は営業として媒介を行うので商法上の商人に該当する。商人がその営業の範囲内において他人のために一定の行為をしたときは相当の報酬を請求することが出来る(商法512条商人の報酬請求権)。

だが宅建業者が委任を受けない相手に対して商法512条に基づく報酬請求権を取得するためには「客観的にみて、該当業者が相手方当事者のためにする意思をもって媒介行為をしたものと認められることが必要である。単に委託者のためにする意思を持ってした媒介行為によって契約が成立し、その媒介行為の反射的利益が相手方当事者にも及ぶというだけでは足りない」(最高裁1975年12月26日判決)としている。

従って宅建業者が契約更新に際して媒介報酬の請求が出来るのは原則として委託を受けた当事者に限られ、依頼していない当事者には報酬を請求出来ない。宅建業者が依頼していない相談者に更新手数料を請求するのは不当である。宅建業者が依頼者である貸主に対して報酬請求出来る上限は賃料の1ヶ月相当額+消費税である。


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2005年12月13日
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競売による店舗(借家)の明渡請求
不動産業者の杜撰なテナント契約で
店舗閉鎖に追込まれ損害賠償を請求



(問) 不動産業者の媒介でビル1階部分の店舗を契約期間5年、保証金500万円、家賃20万円で賃貸借契約を締結した。店舗改装費に800万円をかけてラーメン屋を開業した。
ところがこのビルは既に裁判所の競売開始決定に基づき差押の登記がなされていた。不動産業者からはこの事に関して何の説明も受けなかった。
その後、買受人から明渡請求をされ、店舗は閉鎖し、杜撰な媒介で大損を蒙った。不動産業者の損害賠償責任を追及したい。

(答) 問題は不動産業者が賃貸借に係る土地建物の媒介に際して登記簿を閲覧する義務があるのか。

宅建業法35条は不動産業者の重要事項説明義務の内容として当該土地・建物の上に存する登記された権利の種類、内容、登記名義人又は登記簿の表題部に記載された所有者の氏名、これらを記載した書面を交付して契約前に宅建主任者が説明しなければならないとしている。

これらは不動産を巡る権利関係の基本であり、取引に係わる媒介業者が登記簿を閲覧するなどして権利関係を調査する義務を負うことは明らかである。

 不動産業者は媒介に当っては、善良な管理者の注意をもって媒介する義務を負う。契約前に既に差押の登記がある場合は、当然相談者の賃借権は競売による買受人に対抗出来ないのは自明である。

従って相談者が明渡請求を受ける可能性は極めて高いと言える。このようなリスクの多い賃貸借契約を防ぐ手段は登記簿を調査することである。差押の登記の有無は登記簿によって簡単に知ることが出来る。差押登記簿の有無の調査は不動産業者の基本的義務である。この初歩的義務を尽くしていない。

 業者は、重要事項を記載した書面を交付して宅建主任者が口頭で説明する義務を果たしていないことは明白である。

 登記簿の調査義務に関して、裁判所は「宅建業者は賃貸人に確認するのはもとより、疑問のある場合は登記簿を閲覧するなどして差押登記等の有無を確認し、賃借人に不測の損害を被らせないように配慮すべき義務がある」(東京地判1992年4月16日)として損害賠償請求を認めている。


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2005年12月12日

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実質的な敷金の回収 
 敷金返還の可能性が殆ど無い場合は
                 家賃の不払で実質的な敷金回収を



(問) 引越を考えているが、噂によると家主は全く敷金を返さないことで有名らしい。敷金は家賃の3箇月分差入れている。自衛策として引越前の3箇月家賃未払いで退去して、敷金で精算してもらうという方法で何か問題があるのか。
(答) 敷金の回収見込みが無い場合に、家賃の不払を実行して実質上敷金を回収する方策を是認する賃借人にとっては画期的な最高裁判決(2002年3月28日)がある。
 尚、最高裁判決の全文は下記に掲載。

  〈事実の概要〉
A所有の建物をBが賃借し、それをYに転貸していた。Yは家賃100万円、敷金1000万円でBと転貸借契約を結んでいた。
入居前からA所有の建物は信託銀行によって抵当権が設定されていた。
Aの経済的破綻が心配でYはBに対して平成10年3月30日に6箇月後に退去するという契約解除を通告し、敷金の回収目的から一方的に6箇月分の家賃の支払を停止した。
Aの借入金の返済がストップしたので信託銀行は、抵当権者の物上代位権を行使して平成10年6月YからBへの賃料債権を差押えた。
Yは家賃(600万円)を未払いのまま9月30日に建物を退去した。

 信託銀行は差押え家賃を支払えとYを提訴した。
Yは裁判で未払い賃料は、建物明渡時に敷金によって当然に充当され消滅するものであると主張した。

最高裁は「目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅することになる。このような敷金の充当による未払い賃料等の消滅は、敷金契約から発生する効果であって相殺のように当事者の意思表示を必要とするものでないから、民法511条によって上記当然消滅の効果が妨げられないことは明らかである」として、Yの主張を容れて信託銀行を敗訴させた。

この最高裁の判決は、一方的な家賃の不払によって実質的に敷金を回収する方策を認めている。この判決は、敷金返還請求権の保護を図ったもので評価出来る。
 明渡しが完了すれば賃料債権は敷金で充当される当然消滅の効果であり、当事者の意思表示を必要としないというのが最高裁の結論である。 従って、相談者は一方的に家賃の不払を実行しても何ら問題は無い。



   〔2002年3月28日最高裁判決全文〕
平成14年03月28日 第一小法廷判決 平成12年(受)第836号

取立債権請求事件要旨:
 敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する内容:

件名 取立債権請求事件
(最高裁判所 平成12年(受)第836号 平成14年03月28日 第一小法廷判決 棄却)
原審 東京高等裁判所 (平成11年(ネ)第3350号)

主    文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。

理    由 上告代理人池田靖,同桑島英美,同相羽利昭,同蓑毛良和,同田川淳一,同堂野達之の上告受理申立て理由について

本件は,抵当不動産について敷金契約の付随する賃貸借契約が締結されたところ,抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえ,取立権に基づきその支払等を求めた事案であり,賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡された場合における敷金の賃料への充当は,上記物上代位権の行使によって妨げられるか否かが争点となっている。

 賃貸借契約における敷金契約は,授受された敷金をもって,賃料債権,賃貸借終了後の目的物の明渡しまでに生ずる賃料相当の損害金債権,その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することとなるべき一切の債権を担保することを目的とする賃貸借契約に付随する契約であり,敷金を交付した者の有する敷金返還請求権は,目的物の返還時において,上記の被担保債権を控除し,なお残額があることを条件として,残額につき発生することになる(最高裁昭和46年(オ)第357号同48年2月2日第二小法廷判決・民集27巻1号80頁参照)。

これを賃料債権等の面からみれば,目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅することになる。このような敷金の充当による未払賃料等の消滅は,敷金契約から発生する効果であって,相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから,民法511条によって上記当然消滅の効果が妨げられないことは明らかである。

 また,抵当権者は,物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前は,原則として抵当不動産の用益関係に介入できないのであるから,抵当不動産の所有者等は,賃貸借契約に付随する契約として敷金契約を締結するか否かを自由に決定することができる。したがって,敷金契約が締結された場合は,賃料債権は敷金の充当を予定した債権になり,このことを抵当権者に主張することができるというべきである。

 以上によれば,敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押えた場合においても,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅するというべきであり,これと同旨の見解に基づき,上告人の請求を棄却した原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田 顯 裁判官 深澤武久)


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2005年12月12日
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更新型「事業用借家」制度
借地借家法の改悪案を議員立法で成立へ
      更に正当事由を排除した「更新型事業用借家」制度も導入へ



 自民党は本年4月13日、党本部で「定期借家権特別委員会」と「法改正検討プロジェクトチーム」による合同会議を開いた。借地借家法38条(定期借家制度)と同法28条(正当事由制度)の改悪を検討し、

 《定期借家制度》に関しては
 �@合意があれば居住用普通借家から定期借家への切替えを認める
 �A仲介業者が重要事項説明を行っている場合、定期借家契約締結の際の貸主の書面による事前説明義務を廃止
 �B床面積200�u未満の居住用定期借家の強行規定の中途解約を任意規定にし、特約で中途解約を排除可能にする。

 《正当事由の緩和》に関しては
�C自己使用及び建替理由であれば単独で正当事由を認める。家賃の数倍を支払えば正当事由として認める等の立退料の低減化を検討している。
�D正当事由を排除した「更新型事業用借家」制度を創設
�E正当事由を排除した「更新型居住用借家」制度の導入も検討された。
 5月中にそれらの試案を纏めて公明党との調整に入り、今秋に予定される臨時国会に「借地借家法改正」案を提出し成立を目指すとしている。

 事業用借家に関しては昭和50年11月29日に公表された法務省の「借地・借家法改正に関する問題点」(問題点)で色々検討されていた。

 法務省民事局参事官室の説明では、営業用建物については賃借人が高価な造作・設備等を設置し、または、のれん、得意先、場所的利益等の無形造作が形成されていることが多く、借家権の譲渡性確保の要請が存在するとして、その検討の必要性が指摘されていた。

 賃借人の資本投下や努力によって形成された無形資産を営業の終了に際して回収する手段を賃借人に与えることは財産権の保護からも適切な措置である。その手段は、賃借権の譲渡・転貸の自由の保障である。そのために、「問題点」では「賃借権の譲渡又は転貸の承諾に代わる許可の裁判制度(借地法9条ノ2参照)を設ける考え方がある」として借地の非訟手続と同様の制度を検討していた。

 平成元年の「借地・借家法改正要綱試案」で検討された事業用借家は正当事由を除外する代わりに賃貸人が補償金を支払うという形で借家関係を終了させることを認める案と、正当事由がある場合は正当事由のみによって終了させる。但し、正当事由がない場合は補償金を支払って借家関係を終了させる案である。以上2点が検討されていた。

 今回、再浮上した正当事由を排除した「更新型事業用借家」制度は、解約時に補償金を支払うことは一切考慮されておらず、賃借人の自由な譲渡・転貸を保証する手立てを何も講じていない。 因みにフランスには事業用借家に関する特別法があり、賃借権譲渡の自由が認められている。


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2005年12月11日
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原状回復費用は借主の負担という特約があるが…
退去時の原状回復費用は借主負担の
特約があるが支払い義務はあるのか



(問) 原状回復費用については借主の負担とするという特約が契約書に記載されている。工事費用を負担して入居時の状態に戻さなければならないのか。

(答) 本来の「原状回復」の意味は民法598条・616条「借主は借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる」ということで借主が建物に持込んだ家具や家電品等は退去時に運び出し、建物に取付けた照明器具、エアコン等は退去時に取外して除去するという借主収去義務のことをいう。ところが家主や管理会社の多くは原状回復とは入居時のまっさらの状態に戻すことであるというように拡大解釈を行っている。

 しかし、
�@「建物賃貸借契約に原状回復条項があるからといって賃借人は建物賃借当時の状態に回復すべき義務はない」(東京簡易裁判所1995年8月8日判決)。
�A「改修の費用を負担して賃貸当初の原状に復する義務を負っていたとは認められない」(京都地方裁判所1995年10月5日判決)。

借主が費用負担して入居時の状態に戻す義務はないことは多くの判例が指摘しているところである。
 民法上、修繕義務は家主が負うものとされている(民法606条1項)。しかし契約自由の原則により民法の規定に反する場合でもその特約が合意されている場合は有効となる。だが、このような修繕費用の借主の全面負担特約が有効かどうかという点が問題となる。

 「入居後の大小修繕を賃借人がする旨の契約条項は、単に賃貸人が民法606条1項所定の修繕義務を負わないとの趣旨にすぎず、賃借人が家屋の使用中に生ずるいっさいの汚損、破損個所を自己の費用で修繕し、家屋を賃借当初と同一の状態で維持すべき義務があるとの趣旨ではない」(最高裁判所1968年1月25日判決)として、このような特約は家主の修繕義務を免除するという意味に止まり、積極的な修繕義務を借主に全面的に負担させるというものではない。

通常使用による自然損耗を借主に費用負担させるには「賃借人がこの義務について認識し、義務負担の意思表示をしたことが必要である」(仙台簡易裁判所1996年11月28日判決)以上の要件を充たしていなければならない。そうでない場合は、契約書に原状回復費用負担特約があっても借主の故意・過失・善管注意義務違反がなければ特約に従う必要はない。


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2005年12月10日   
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大災害時に借地上の建物が滅失 
  大規模災害で建物が滅失してしまった場合
                    借地権と再築はどうなるのか



(問) 借地上の建物が大災害により倒壊・焼失・流失等で滅失した場合は借地人の権利はどうなるのか。

(答) 借地契約が借地借家法施行(1992年8月1日)前に設定された借地権(建物滅失後の建物築造)に関しては借地法7条が適用される。
借地権の存続期間が終了する前に地震・火事・台風等による災害によって借地上の建物が滅失した場合は借地権自体は消滅しない。借地法7条は建物が滅失しても建物を再築することが出来ることを規定している。

判例も「建物を新築する時は、地主の承諾を得る旨の特約があるとしても、この特約は消失した建物を再築する際にも地主の承諾が必要である趣旨ではない」(東京高裁1958年2月12日判決)としている。従って災害による滅失の場合は増改築を制限する特約があっても地主の承諾は不要と言うことになる。

 問題は、借地人の建物が滅失している間―例えば建物の再築が資金繰等で長引いている間に、地主が第三者に土地を売却してしまった場合である。

本来、借地人は借地上の建物を登記しておけば土地所有者が代っても新所有者に対して自分の借地権を対抗(主張)することが出来、借地の明渡しを求められることはない。

 しかし建物が滅失している間に土地を取得した新所有者に対しては原則的には借地権を主張することは出来ない。だが「借地借家法」は建物の滅失の原因を問わずに借地人が建物を特定する事項・建物の滅失の日・建物建築予定等を掲示することによって建物が無くても旧建物の滅失の日から2年に限って新所有者に対抗することが出来る(借地借家法10条2項)という救済規定を定めている。

 大規模災害があった場合は政令で適用地域を定めて罹災都市借地借家臨時処理法(以下処理法)が適用される。10年前の阪神大震災の場合は20日後に処理法が指定された。「処理法」は借地権の存続期間に関しては建物の再築を容易にするために残存期間が10年以下の場合は一律に政令施行日から10年間に延長される(処理法11条)。
また政令施行日から5年間に限り建物が滅失のままでも前記掲示をしなくても新所有者に借地権を対抗することが出来る(処理法10条)として借地借家法10条よりも救済措置が強化されている。


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2005年12月09日
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修繕費は家主の負担 
備え付けのエアコンの修理代金は
修繕特約がある場合でも家主の費用負担



(問)
 賃貸マンションの備付けのエアコンが故障し、不動産管理会社に修理を依頼したところ、特約で修理は賃借人負担となっているので、電気店に自分で修理を依頼するようにと断られた。取敢えず自分で電気店へ修理を頼み、室外機のコンプレッサー不良交換で、5万円の修理代を支払った。本来備付けの設備は、貸主が修理代金を負担するのが道理だと思うのですが。

(答)
  民法606条1項で賃貸人は修繕義務を負っている。賃借人の故意・過失がない限り、賃借人が修繕をした場合、賃貸人に対してその費用を請求することが出来る。但し、同条は、任意規定であり、特約で修繕義務を賃借人に負担させることは、原則として可能である。

 だが�@「借家人の負担において修繕を行う旨の特約をもって賃借人に積極的に修繕義務まで課したものと解することはできない。仮に修理特約により何らかの修繕義務を負うものとしても、その範囲は小修理・小修繕の範囲に限られるべきである」(名古屋地裁1990年10月19日)。

 �A「修繕特約は、一定範囲の小修繕については賃借人の全額負担とする旨を定めたものであるといえるが、居住用建物の賃貸借における特約の趣旨は、通常賃貸人の修繕義務を免除したにとどまり、更に特別の事情が存在する場合を除き、賃借人に修繕義務を負わせるものではない」(仙台簡易裁判所1996年11月28日)。

 即ち家主の修繕義務を免除したにとどまり、積極的に借家人に修繕義務を課したものではない。仮に修繕特約によって賃借人が修繕義務を負うとされる場合でも、少額の費用で済む「小修繕」についてのみ修繕義務を負い、「大修繕」については修繕義務を負わない。

 従って大修繕に関しては修繕特約を結んでも無効というのが裁判例である。尚、前記名古屋地判では前記仙台簡裁の「特別の事情の存在」も否定し修理特約を賃借人に有利に解釈している。

 結論、修理代金が概ね1万円以下の場合が小修繕と言われる。相談者のエアコン修理は、小修繕とは言えない。従って、修繕義務を負わない。賃借人が自ら修理費用を負担した場合は、賃貸人に対して、民法608条により、直ちに支出した費用の全額を費用償還請求できる。賃貸人が修理費用を支払わない場合は、家賃と相殺することが出来る。


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2005年12月08日
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借地の更新で
更新を重ねた借地契約を合意解約し
新法適用の契約へ切替えられるのか



 (問) 借地借家法施行(平成4年8月