2005年11月
2005年11月30日

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賃借の不動産仲介手数料
不動産業者の仲介手数料は
    家賃の半月分プラス消費税(5%)が原則だ

(問) マンション・アパート等の仲介手数料は町の不動産屋では家賃の1.05倍というのが殆どである。しかし、最近テレビCM等で大手不動産会社の仲介手数料は1か月の0.525倍と宣伝している。仲介手数料に関して法改正でもあったのだろうか。

(答) 不動産業者が貸借の媒介(仲介)・代理に関して受取ることの出来る報酬額(仲介手数料)は、宅地建物取引業法(宅建業法)第46条1項の規定に基づき、昭和45年10月23日の建設省告示第1552号で定められている。

《貸借の媒介に関する報酬の額》
「宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して依頼者双方から受取ることのできる報酬額の合計額は、当該宅地又は建物の借賃の1月分に相当する金額以内とする。この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該媒介を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1月分の2分の1に相当する金額以内とする。」

このように不動産業者が受取れる仲介手数料は、賃料の1か月分が最高限度であり、宅建業法46条2項では、これ以上の金額を報酬として受取ることを禁じている。
 殊に、居住用建物に関しては、貸主・借主双方から受取れる仲介手数料は家賃の0.5か月分以内とすることを原則としている。

 そのことを説明しないで当然の如く仲介手数料として家賃の1か月分を要求し、受領するのが不動産業界の習慣と化している。悪質な業者は貸主と借主の両者からそれぞれ家賃の1か月分相当の仲介手数料を受領する。貸主に対しては広告費という名目で仲介手数料を受領する。

これなどは明白に宅建業法46条2項に違反する。同法82条で30万円以下の罰金に処せられる行為である。又同法65条2項で1年以内の期間で業務の全部又は一部の停止の行政処分を受けることに繋がる重大な違法行為である。

 賃貸住宅の仲介業界で1位のエイブルと2位のミニミニが家賃の1か月以上の仲介手数料を受領していたとして、この46条2項違反として業界で初めて東京都から2000年3月29日付で「業務の全部停止10日間」の行政処分を受けた。

 尚、消費税の総額表示の実施に伴い、国土交通省告示第100号で前記「1月分」が「1月分の1.05倍」に、「1月分の2分の1」が「1月分の0・525倍」に改正され、2004年4月1日より施行されている。下記参照

   貸借の媒介に関する報酬の額

 宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額(当該媒介に係る消費税等相当額を含む。以下この規定において同じ。)の合計額は、当該宅地又は建物の借賃(当該貸借に係る消費税等相当額を含まないものとし、当該媒介が使用貸借に係るものである場合においては、当該宅地又は建物の通常の借賃をいう。以下同じ。)の1月分の1.05倍に相当する金額以内とする。この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1月分の0.525倍に相当する金額以内とする。(最終改正 平成16年2月18日国土交通省告示第100号)

(報酬) 
第46条 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。

2 宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない。

3 国土交通大臣は、第1項の報酬の額を定めたときは、これを告示しなければならない。

4 宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、第1項の規定により国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならない。(宅地建物取引業法)

東京借地借家人新聞より


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2005年11月29日

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原状回復特約を消費者契約法10条で無効に 
 2004年6月11日京都地裁判決

 通常損耗・自然損耗を含めた原状回復費を総て賃借人の負担とする不当特約が京都地裁で争われた。
 賃貸人はマンション管理と賃貸の株式会社長栄である。長栄は京都・滋賀エリアでは最大手の不動産会社である。賃借人は京都の借地借家人組合の組合員である。

 1999年11月に期間2年、家賃6万5千円、敷金20万円の契約で伏見区のマンションに入居した。2年後に合意更新し、2003年3月31日に退去した。長栄に敷金20万円の返還を求めたが拒否され、京都地裁で争われることになった。

 裁判の争点は
�@原状回復義務に関する特約の成否と�A特約の効力とが中心として争われた。

 裁判所は�@に関しては「自然損耗も含めて賃貸借契約開始時の原状に回復しなければならない(家賃には原状回復費用は含まれない)。」という原状回復特約の横の余白部分に不動文字で「第9条1項を一読し、理解致しました」と書かれ、確認欄に賃借人の署名・捺印があることから「特約についての合意は有効に成立したものと推認される」として特約の成立を認定した。

 しかし、裁判所は「原状回復義務の範囲は、賃借人が付加した造作等の除去義務のほか、通常の使用の限度を超える方法により賃貸目的の価値を減耗させた場合の復旧義務及び賃借人の故意過失により賃借物を毀損・汚損した場合の債務不履行による損害賠償義務」以上の3点であり、それ以外の経年劣化による減価分及び通常利用による賃借目的物の価値低下は賃料に含まれ「その減価を賃料以外の方法で賃借人に負担させることはできない」として経年劣化(自然損耗)と通常損耗は、原状回復の対象とはならず、特約内容に問題があると認定した。

 �Aに関しては「特約は民法の任意規定による賃借人の目的物返還義務を加重するものといえる」として、この義務の加重の程度が信義則に反するほど消費者の利益を一方的に害するものであるかを検討した上で「本件特約は、消費者契約法10条により無効と解すべきである」と判示した。敷金20万円から水道料の精算金3886円を控除した残金を返還するよう命ずる賃借人勝訴の判決が2004年6月11日京都地裁であった。

 この判決で注目されるのは、消費者契約法施行(2001年4月1日)前に締結された契約でも更新前と更新後の契約は別個の契約であるとして施行後に契約が更新された場合は消費者契約法が適用されると認定したことである。


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2005年11月28日

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東京都の賃貸住宅紛争防止条例
 
 東京版ガイドラインは1章で「賃貸住宅紛争防止条例」を解説している。東京に居住する世帯の約4割、205万世帯が民間賃貸住宅に居住している。賃貸住宅に関するトラブルで1番多いのが退去時の原状回復(敷金の精算)トラブル、次が入居時の修繕等の管理に関するトラブルである。東京都はこれらのトラブルを防止するために「紛争防止条例」を制定し、2004年10月1日から既に施行している。

 条例では宅建業者が代理・媒介をする場合、契約前にトラブルの未然防止を図るために、
 �@入居中の修繕及び退去時の原状回復は貸主の費用負担で行うのが原則であること
 �A借主の故意・過失や通常の使用方法に反する使用の場合は借主の費用負担となること
 �B特約がある場合は借主の負担する具体的な内容を明記すること
 �C入居期間中の設備の修繕及び維持管理に関する連絡先
 以上の事項を記載した書面を交付して借主に十分理解できるように説明することが義務付けられている。

宅建業者が説明義務に違反した場合、知事は指導、勧告、社名を公表することが出来る。問題は、この条例に違反しても宅建業に対する罰則規定はなく、業務停止、免許取消などの行政処分は行われず、条例の実効性が危ぶまれる点である。

 次の問題点は、条例が適用されるのは宅建業者が代理・媒介を行う東京都内にある居住専用の賃貸住宅に限定されていることだ。従って店舗、事務所、倉庫等の事業用は対象外となっている。貸主と直接契約を結ぶ賃貸住宅も対象から外れる。

 東京版ガイドライン2頁には、条例の適用があるのは平成16年10月1日以降の新規賃貸借契約で更新契約を除くと書かれている。だが、東京都の見解は根拠のないものだ。「賃貸住宅紛争防止条例」には新規契約に限られる或は、更新契約に適用しないという規定はどこにも存在しない。 トラブル防止を主眼とする条例を広く普及させるのであれば当然更新契約にも適用されるべきであろう。


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2005年11月27日

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賃貸住宅トラブル防止ガイドライン

原状回復トラブル防止の為に、東京都がガイドラインを作成  

 トラブル防止を目的として東京都は「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(東京版ガイドライン)を発表した。インターネットを使えば東京都のホームページから全文ダウンロード出来る。尚、2004年11月からは全国の書店で「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(住宅新報社)が1冊290円で販売されている。

 東京版ガイドラインは国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン改訂版」に基づいて作られているので原則や基本的な考え方は踏襲されている。

 東京版は原状回復を次のように説明している。
 「借主に義務として課されている『原状回復』とは退去時に、借主の故意・過失や通常の使用方法に反する使用など、借主の責任によって生じた損耗やキズなどを復旧することです」(7頁)。

 従って通常損耗や経年変化は原状回復の対象にはならない。国交省ガイドラインの基本見解に立っている。

 東京版は、原状回復をレンタカーを数か月間借りた例で説明している。

 「数か月も乗っていれば、タイヤもすり減ったりするでしょう。だからといって、車を返す時にレンタカー料金以外にその復旧費用を別途請求されることはありません。一方、不注意で車をぶつけてしまった場合などは、レンタカー料金以外に復旧費用を請求されることになります。賃貸住宅における『原状回復』も同じように考えていただければよいと思います」(7頁) 

 特約についても特約の「�@必要性があり、かつ暴利的でないなど客観的合理的理由の存在が必要で、�A特に賃借人がこの義務について認識し、�B義務負担の意思表示をしたことが必要である」(伏見簡判1995年7月18日及び1997年2月25日)の判例を基にして以上の3要件が必要であると解説している(10頁)。

 「東京版ガイドライン」(9頁の表)と「国交省ガイドライン別表2」(22〜23頁)を比較すると内容は同一である。だが、東京版の「経過年数等の考慮」欄を見ると、国交省版にある「6年で残存価値10%となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する」が削られ、そこに「経過年数を考慮し、負担割合を算定する」という曖昧な文章に替えられている。

 東京版ガイドラインでは経過年数を考慮することになっているが、基準となる1年間の減価割合が書かれていない。算定の明確な「基準」がないので具体的な負担割合が把握出来ない。このように東京版ガイドラインは費用負担割合を確定するための明確な規準が欠落しているのでトラブルを防止するための具体的・合理的な負担割合を算定出来ないという致命的な問題点がある。
 これは、「国交省のガイドライン改訂版」の白眉である経過年数による減価割合の考え方が東京版ガイドラインでは意識的に抹殺されていることに基因する。

東京借地借家人新聞より


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2005年11月26日

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借地借家法の改悪の検討 
正当事由の緩和へ政府自民党の「規制改革」  

 政府自民党は規制改革の一環として借地借家法を改悪しようとしている。借地借家法38条(定期借家制度)と同法28条の「正当事由」の規制緩和を目論んでいる。

 具体的には
 �@居住用建物については当事者が合意した場合は普通借家から定期借家への切替を認める
 �A貸主の事前説明義務の廃止
 �B200�u以下の居住用借家の借主の解約権の廃止
 �C借地借家法の正当事由の緩和と立退料の低減化を検討
     (「規制改革推進3か年計画」2003年3月28日閣議決定)

 《�@について》
 現在、居住用建物に関しては既存の普通借家契約から定期借家契約への切替は、仮に当事者の合意の上でも禁止されている(特別措置法附則3条)。

 定期借家推進論者は、現行の定期借家制度が居住用住宅に関しては新規契約のみに摘要され、制度として不徹底であったことが効果を上げられない原因であるとしてその禁止措置の廃止を主張する。

 国土交通省の「定期借家契約の実態調査」(2004年1月16日発表)で切替えを認めるべきではないという事業者の約67%がこの禁止措置の歯止めが無くなると契約の理解が不充分なまま定期借家契約へ切替えられる危険があるとしている。

 但し、店舗・事務所等の非居住用建物の場合は現在でも当事者の合意があれば定期借家契約への切替は可能である。

 《�Aについて》
 貸主は定期借家契約締結まえに定期借家契約の内容を説明する義務と説明文書(契約書とは別)の交付義務がある。貸主義務を果していない場合は定期借家契約は無効になり、普通借家契約として扱われる。 
 貸主の事前説明義務の廃止は、貸主の便宜のみに配慮し、トラブルを未然に防止することを放棄したものである。前記調査で廃止に反対する事業者の63%が書面説明は紛争回避に繋がると回答。

 貸主の説明義務と宅建業者の重要事項説明と重複するとの理由で廃止すべきとしている。だが、不動産業者が当事者双方の仲介を行いながら貸主の代理として説明を行うということは双方代理禁止の観点からも問題である。宅建業法31条に規定する業務処理の原則にも背くものである。

 《�Bについて》
 改悪のポイントは、200�u未満の居住用住宅に認められて中途解約権を強行規定から任意規定に変更するか、200�u未満の制限を撤廃して中途解約権を全廃する。
 任意規定であれば特約で中途解約を制限する条項を加えて実質的に中途解約を排除することが出来る。

 現行の200�u以下の居住用住宅及び店舗等の非居住用は、一切中途解約権は無いので注意したい。前記調査は事業者の約60%・居住者の78%が中途解約権を存続すべきと回答。

 《�Cについて》
定期借家推進協議会の虫のいい提言は次のようになっている。
 �@自己使用
 �A建替
 �B土地の高度利用等の理由があれば単独でも正当事由を認め、立退料は不要とする。
 以上の事項に該当しない場合でも家賃の数か月分払えば更新を拒絶出来る制度を創設する。

 最後に、定期借家制度は期間が満了すると貸主は契約を一方的に終了させ、立退料を支払うことなく確定的に明渡を完了させられる。借主にとっては非常に危険な契約である。

 前記調査の中に平成14年の定期借家契約7111件の内で再契約が出来なかったのは3911件で55%という結果がある。

 言い換えると55%の借主が再契約を一方的に拒否されて無条件で居室から立退かざるを得なかったという事実は注視しなければならない。

東京借地借家人新聞より


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2005年11月25日

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原状回復特約に警鐘
  敷金訴訟で全面勝訴
     県住宅公社に不当な費用の返還請求

 尼崎借地借家人組合顧問の吉村勇さんは、1995年1月17日の阪神大震災で被災した。自宅を建替える期間、兵庫県と他の6市の出資による特殊法人である兵庫県住宅供給公社が一括借上げして管理する尼崎市の賃貸マンション「エスポワール園田」に1年6か月入居していた。
 入居していたマンションは住宅金融公庫から融資を受け、且つ尼崎特定有料賃貸住宅制度に基づいて建設費用の補助と入居者の家賃補助が行われている特定優良賃貸住宅である。賃貸借契約には特優賃法と公庫法の適用がある。

 敷金は家賃の3か月分約37万円が差入れられていたが、退去時に原状回復費用としてふすま貼替、畳表替、クロス貼替、玄関鍵取替等工事費用として約21万円が差引かれた。

 退去跡補修工事は通常損耗分の修繕費であり、賃貸人である公社が負担すべきで、賃借人に通常損耗分の費用を負担させることは、法律上・社会通念上の義務とは別個の新たな義務を負担させるものである。
 従って、そのような合意の成立は、その義務の具体的な内容を理解認識した上で、その義務負担の意思表示がされることが必要である。

 しかし、住宅供給公社は費用負担の説明義務を履行していない。また、通常損耗費用及び鍵取替費用の負担をするという同意をしていないので原状回復特約は成立しないと吉村さんは主張し、公社に対して不当な費用負担分の約21万円の返還を求めて提訴した。

 裁判の争点は、
 �@公社との賃貸借契約について、通常損耗分及び玄関の鍵の取替を賃借人の負担とする合意が成立したか、
 �A仮に成立したとして、原状回復特約が特優法・公庫法に違反し、公序良俗違反として私法上の効力が否定されるかであった。

 契約書本文では通常損耗分は賃貸人である公社の費用負担と記載されている。しかし、別冊である「修繕費用負担区分表」・「住まいのしおり」では賃借人の費用負担と記載されており、両者に齟齬がある。これに関して公社は「区分表」と「しおり」に基づいて通常損耗について賃借人負担とする原状回復特約は成立すると主張した。

 一審の神戸地裁尼崎支部は特約の成立を認め、特優賃法・住宅金融公庫法に定める限度内の家賃の範囲であれば、退去時に通常損耗費用を控除する方式も問題はないとして吉村さんの請求を棄却した。吉村さんは判決を不服として大阪高裁に控訴した。

 2003年11月21日大阪高裁は、「区分表は、本件賃貸借契約の別冊であり、その一部であって特則ではないから、これをもって本件特約の成立を認めることは出来ない」として通常損耗の修繕費用を借主に負担させる特約は成立しないという判断を下した。
 そして「特優法及び公庫法の規定の趣旨にかんがみると、本件特約の成立は、賃借人がその趣旨を十分に理解し、自由な意思に基づいてこれを同意したことが積極的に認定されない限り、安易にこれをみとめるべきではない」と結論づけている。
 その結果、住宅供給公社の主張する原状回復費用借主負担の特約の成立を否認し、一審判決を取消し、借主の請求をほぼ全額認める判決を言い渡した。

 兵庫県住宅供給公社は、この判決を不服として最高裁へ上告した。
 2004年6月10日、最高裁判所は「当裁判所は裁判官全員の一致の意見で次のとおり決定する。主文 本件を上告審として受理しない。申立費用は申立人の負担とする。」として申立人である兵庫県住宅供給公社の上告を退ける決定を出した。この最高裁の上告棄却によって、大阪高裁判決が確定し、吉村勇さんの全面勝訴が決定した。

 この判決は全国の公社が管理する約3万戸に大きな影響を与えることは必定である。自然損耗分は貸主の費用負担は判例の主流であり、国土交通省も「標準契約書」「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」等によって自然損耗(通常損耗・経年変化)を借主に負担させないように指導している。また、東京都は2004年10月1日より、退去時の原状回復費用負担のトラブルを防止する「賃貸住宅紛争防止条例」を施行する。

東京借地借家人新聞より


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2005年11月24日

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賃貸住宅の更新料特約
  京都で借主勝訴判決 
     法定更新の場合は更新料の支払不要
 
 2004年5月18日京都地裁で更新料支払特約が有っても契約が法定更新された場合は、特約は適用されず、更新料の支払義務が無いという借主勝訴の判決があった。

 勝訴したのは京都借地借家人組合の組合員である。更新料支払が慣習化している京都では約定更新料支払義務無しの判決は初めてであり、京都の家主側に衝撃を与えた。

 元来関西圏は礼金・更新料の支払慣習が無い地域であるが、京都と滋賀は例外である。
 例えば、京都の中心部の1Kタイプ(約20�u)の賃貸マンションの場合は
 �@家賃(5〜6万円)、
 �A礼金(15〜20万円)、
 �B敷金(15〜20万円)、
 �C更新料(家賃の2ヶ月分)、
 �D管理費(5000〜1万円)、
 契約期間1年というものが多い。
 京都と滋賀の敷金の精算は通常損耗も敷金でカバーする関西式の「敷引き」であるが、余りがある場合は原則返金するのが特徴である。

 京都地裁で争った借主の場合は1Kタイプのマンションで契約期間1年、家賃(6万2000円)、管理費(8510円)特約として更新料(家賃の2ヵ月分)、更新手数料(1万5000円)を支払うという契約で入居した。借主は先の例と同程度の礼金・敷金も支払っている筈である。家主の代理人の管理会社は、契約満了の1ヵ月前に前回と同一の契約内容の書類に署名・押印を求め、更に特約の更新料と更新手数料を請求してきた。

 契約内容に不満があるので借主は、�@契約期間2年、�A特約の更新料と�B原状回復の承諾条項の削除を求めたが、管理会社に一蹴された。更新料支払か解約かを強要されたが、借地借家法に基づいて契約は法定更新された。だが、家主はあくまで特約に基づく更新料と手数料の合計13万4500円の支払いを求めて提訴した。

 裁判では法定更新された場合、更新料支払特約は有効なのか否かが争点となった。即ち借主の更新料支払義務の有無が争われた。

 (ア)家主は、更新料約定は有効であり、合意更新に限らず、法定更新にも適用される。従って借主は更新料等の支払義務があると主張した。

 (イ)借主は、更新料約定は合意更新を前提としたもので無効であり、法定更新には適用されない。従って更新料等の支払義務は無い。そもそも更新料約定は、消費者契約法10条によって無効であると主張した。

 (ウ)裁判所は「更新約定は全体としても、合意更新を前提としたものであって、法定更新には適用されない」として家主が特約に基づき「更新料及び更新手数料の支払いを求めることはできない」という判断を下した。

 この裁判で注目されたのは借主側が更新料支払義務無しの根拠として、今までにない消費者契約法10条を適用した点である。

 更新料約定は借主(消費者)に民法・借地借家法の適用上は存在しない更新料支払義務を課し、更に1年契約で2ヵ月分の賃料相当額という高額の更新料を課す暴利的なものである。これは借主の権利を制限し、又は借主の義務を加重する条項であって借主の利益を一方的に害するものは無効であるとする消費者契約法10条に違反する特約条項であると主張した。

 これに対して、京都地裁は「それが消費者契約法10条に違反するものとして無効であるかどうかはさておく」と判断を回避してしまったのは残念である。


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2005年11月23日

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 大阪高裁の敷金返還裁判消契法で原状回復特約に“否”の判断

 経年変化による自然損耗や通常損耗は家賃によってカバーされるもので、特約で家賃以外の方法で負担させることは家賃の二重払いになる。従って自然損耗や通常損耗は原状回復の対象にならないというのが従来の判例の考え方である。

 昨年の12月17日及び本年1月28日に大阪高裁で退去時に通常・自然損耗を含めた復旧費用を一方的に賃借人に負担させる原状回復特約は消費者契約法10条に反し無効とする判決があった。両裁判は敷金の全額が返還されるという賃借人全面勝訴の判決であり、賃貸業者・不動産業者に強い衝撃を与えるものであった。

 大阪高裁の二つの判決が画期的である点は、特約の成立を認定した上で、原状回復特約を消費者契約法10条によって不当条項として特約自体の違法性を認定したことである。

 従来の判例は原状回復特約に対して特約の成立条件に制限を設け、その要件を充たさない場合は特約の有効性を否定した。

 即ち特約が認められるのは
�@特約の必要性、合理的理由が存在すること
�A特約によって通常の義務を超えた修繕等の義務を負うことを認識していること
�B賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること、
以上の要件を具備していることが必要である。

 これらの三要件を充たしていない場合は特約は無効とされる。判例は特約成立の要件の不備を理由にして特約の効力を否定して多くの賃借人の救済を図って来た。これらの判例理論は国交省や東京都の「ガイドライン」に取入れられ、特約トラブルの歯止めとして活用されている。

 しかし最近では賃貸業者も判例や「ガイドライン」等を研究し、その裏を行く契約書を用い、特約の無効を回避する対策を実行している。

 例えば契約時に原状回復の説明書を契約書に添付して説明の随処に理解確認の署名・捺印欄を設ける。加えて別紙で復元基準表を添付して原状回復費の単価表を明示して具体的な費用が算定出来るようになっている。

 「入居の期間の長短を問わず通常の使用方法による汚れ(いわゆる自然損耗)のみの場合であっても、別紙復元基準表に沿って賃借人が原状回復の義務を負担することについて承諾した」等が初めから印刷されておりそこに署名・捺印欄があり、確認を求められる。

 それらによって契約時に
 �@特約の内容の説明を受けなかった
 �A費用負担の具体的な内容説明を受けていない
 �B原状回復義務の承諾の意思表示をしていない
 という賃借人からの反論を封じている。賃貸業者はこのような対抗策を採用して原状回復特約の不成立を防ぐ努力をしている。

 二つの裁判で敗訴した不動産管理会社は特約を盾にして敷金(20万円)返還を拒んでいた。一審の京都地裁で敗訴し、大阪高裁へ控訴して争われていたのが前記の裁判である。従来の判例理論では救済が難しいと思われた事例である。

 両裁判での争点は主に
�@原状回復義務に関する特約の成否と
�A原状回復特約の効力が中心に争われた。

 大阪高裁2004年12月17日判決では
�@に関しては特約の成立を消極的に認める判断をしている。その上で
�Aに関して「本件原状回復特約、即ち、自然損耗等についての原状回復義務を賃借人が負担するとの合意部分は、民法の任意規定の適用による場合に比し、賃借人の義務を加重し、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害しており、消費者契約法10条に該当し、無効である」としている。

 一方、大阪高裁2005年1月28日判決では
�@に関しては確認の署名・捺印などが有ることから、「本件特約が成立したことが認められると判断する」。その上で
�Aに関して「当裁判所も、本件特約は消費者契約法10条の適用により無効であると判断する」。

 両判決は原状回復特約が違法な特約であると認定している。

 これら大阪高裁の判決は、これからの敷金返還裁判や敷金返還の少額訴訟等に重大な影響を与えることは間違いない。特に重要なのは、消費者契約法施行(2001年4月1日)前に締結された契約でも、施行後に契約が更新された場合は消費者契約法が適用されると認定されたことである。

 東京都は原状回復トラブルを防止するために昨年10月1日より「賃貸住宅紛争防止条例」を施行している。だが条例の適用は施行後の新規契約に限られるとしている。施行後に結ばれた更新契約を何の根拠も無く一方的に条例の適用から除外しているが、東京都の姿勢は疑問である。


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2005年11月22日

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借地の更新料
約定更新料で新判断―最高裁が地主の上告を棄却

 〈合意無ければ支払義務無し〉 
法務省の司法統計によると「借地紛争」が多発したのは、1965年(昭和40年)前後と1985年(昭和60年)前後である。統計的に予測される次の「借地紛争」多発の時期は戦後60年に当る2005年(平成17年)である。「借地紛争」の実体は、借地人側から見ると更新料問題である。

 更新料の授受は慣習に多く頼っており、地域差が非常に大きいという理由から「借地借家法」(1992年8月1日施行)においても更新料の規定は置かれなかった。更新料については法律には何の規定もない。従って法律上は、賃借人が更新料支払の義務を負っている訳ではないし、また賃貸人が更新料を請求する権利を持っている訳でもない。

 最高裁は更新料に関して「賃借期間満了に際し賃貸人の一方的な請求に基づき当然に賃借人に賃貸人に対する更新料支払義務を生じさせる事実たる慣習が存在するものとは認められない」(最高裁1978年1月24日判決・同趣旨の最高裁1976年10月1日判決)(注)としている。
 即ち、予め更新料の支払約束が無い場合は賃貸人が賃借人に対して更新料を請求することが出来ないというのが判例の主流である。実際、前記最高裁判決後、借地・借家に関して更新料支払合意が無い場合に更新料支払義務を認めた判例は存在しない。

  〈約定更新料は支払義務無し〉
 それでは、契約書に更新料支払の特約がある場合、賃借人は更新料の支払義務を負うのか。
 借家に関しては、既に更新料支払約定があっても法定更新された場合には借家人に更新料支払義務がないという最高裁判決(1982年4月15日)がある。

 借地に関してはどうだろうか。
 地主が借地人に対して契約で合意した(約定)更新料の支払を求めて東京地裁に訴えた事例を検討してみたい。これは江東借地借家人組合の会員の場合である。
裁判では法定更新の場合、借地人の約定更新料の支払義務の有無が争点になった。

東京地裁は「更新料支払合意が契約の法定更新の場合を除外する趣旨のもの」とは認められないとして借地人は法定更新しても約定更新料の支払義務を負うと判示し、借地人に更新料約76万円(坪当り約25600円)の支払いを命じた(2000年3月13日判決)。

しかし、地主は更新料が低額であるとして東京高裁へ控訴した。東京高裁は「法定更新された本件においては、本件更新料支払合意は効力を有するとは認められず、したがって、右合意を根拠とした控訴人(地主)らの本件請求は本来理由のないもの」(2000年9月27日判決)として地主の請求を根拠が無いと否認した。

 地主はこの判決を不服として最高裁へ上告した。
最高裁は地主の上告を棄却し、予め合意された更新料支払の約定は法定更新の場合には適用されず、借地人の更新料支払義務を負わないとする東京高裁の判決趣旨を是認した(最高裁2002年2月22日判決)。

借地人の「2005年問題」の闘いに・更新料不払実行に有利な判決がまた一つ追加された。

  
(注)
「宅地賃貸借の期間満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商習慣ないし事実たる慣習が存在するものとは認めるに足りない」(最高裁1976年10月1日判決)

「建物所有を目的とする土地賃貸借契約における賃借期間満了に際し賃貸人の一方的な請求に基づき当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生じさせる事実たる慣習が存在するものとは認められない」(最高裁1978年1月24日)


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2005年11月19日

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 敷金返還(上)
 原状回復費用
 普通に使えば負担なし
朝日新聞 2005年11月12日 be on Satturdayより

 賃貸住宅から引っ越しする時に気になるのは、敷金がいくら戻ってくるかです。注意して使っていたのに、想定以上の修理費を差し引かれて不愉快な思いをした人も多くいます。そのルールを調べてみました。

 Q 引っ越しで敷金トラブルを抱える人は多いね。

 A 左の円グラフの内側を見てほしい。beモニターを対象に10月に行ったアンケートで、引っ越しをしたことがある人に、返ってきた敷金が何割ぐらいだったかを聞いたものだ。

 全額が返ってきた人も19%いるけど、全く返ってこなかった人が20%。返ってこないどころか追加の請求をされた人も5%いる。それに対して、「どのくらい戻るべきだと考えるか」を聞いた質問の答え(外側の円グラフ)を見ると、8割以上戻るべきだと考える人が68%になる。

 Q 借り手が考える以上に負担は大きいね。

 A 敷金は何十万円にもなることがあるからね。賃貸住宅を退居する時には、貸す方も借りる方も少しでも自分に有利な解釈をしようとするから、感情的なもつれが生まれることがある。賃貸住宅の契約は、昔からの慣習を引きずっていて、一般的な契約から見ると貸す側に有利なものも多い。消費者意識が高まっているので、トラブルも増えているんだ。

 Q 敷金返還の基本ルールはどうなっているの。

 A 借り手が退居する時には「原状回復」をする義務があるんだ。

 Q 「ゲンジョウ」って言うのは、元々の姿のことをさすのかな。借りた時の姿に戻すとしたら、リフォーム代は多額になるね。

 A 建物は普通に暮らしていても、時間がたてば傷みが出るよね。だから、借りている人が補修しないといけないのは、通常の使用ではない、故意や過失などで壊れたり汚れたりしたものに限られるんだ。例えば、時間がたてば畳が色あせたりするのは当然だよね。そういうものは直さなくてもいい。

 Q なるほど。でも、通常の使用の範囲を判断するのは難しそうだね。

 A そこで、国土交通省は裁判例などをもとに、98年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をまとめて公表した。上の一覧表を見てほしい。例えば、引っ越しの時にテレビや冷蔵庫を動かすと、背面にあたる部分の壁が黒くなっていることがあるよね。そういう壁の補修はどちらの負担だと思う?

 Q それは借り手が直さないといけないような気がするなあ。

 A いや、その必要はないんだ。テレビや冷蔵庫は生活の必需品といえるよね。そういうものを使ってできた汚れは「通常の使用」の範囲に入る。エアコンも生活必需品と考えていいのではないかという判断が示されている。

 Q 「善管注意義務」なんて、聞き慣れない言葉が書いてあるけど。

 A 「善良な管理者の注意義務」という法律用語の略なんだ。簡単に言うと、普通なら気づくはずの注意を払って生活したかどうかということだね。だから、日照でフローリングの床が色落ちすることは借り手の責任ではないけど、もし、雨漏りしているのを知っていながら大家さんに連絡せずに放置していてフローリングが色落ちするなどしたら、「善管注意義務違反」を問われる可能性がある。

 Q 退居したあとに業者が行う清掃の代金(クリーニング代)を取られることがあるね。

 A 「通常の清掃」をして明け渡せば、払う必要がない。ガイドラインには、ゴミの撤去、掃き掃除、ふき掃除、水回り、換気扇、レンジ回りの油汚れの除去などとなっている。ただし、通常の業者クリーニングで消えない汚れなどは払う必要がある。たとえば、たばこのにおいは消えにくいので、借り手が負担することが多いようだ。

 Q でも、クリーニングを行うことが契約書に書いてある場合があるね。

 A それは、原状回復の義務を超えた負担になるので、「特約」といえる。ただし、特約は「暴利的でないなどの客観的、合理的理由」がないと無効の可能性がある。相場より安い家賃設定をした場合などで、借り手が「特約」であることを承知して契約していれば有効とみなされる可能性がある。

 Q ところで、住んだ期間は影響しないの? 住んだ側に責任があったとしても、長い間使ったものを新品にする負担は必要ないよね?

 A そうだね。ガイドラインでは、減価償却の考え方を使っている。たとえば壁紙やカーペットなどの「内装材」は6年で価値が10%になると考える。1年で15%価値が下がるから、入居した時に新品の壁紙で、4年たって退居する時に張り替えが必要な傷をつけてしまったら、費用の4割を負担する。

 Q なんでも6年なの?

 A 日本住宅性能検査協会によると、残存価値が10%に下がる期間は内装材を6年、浴槽などの設備を8年で考えるということだよ。ふすまや畳表などは「消耗品」の扱いで、破ってしまった場合などは経過年数を考えずに修理費を負担しないといけない。

 Q 壁紙なんかは一部だけを替えると、ほかと釣り合わなくなってしまうよね。

 A 確かに、破れたのは壁紙の一部でも、大家さんは部屋全部を張り替えないといけなくなるだろうね。ただし、ガイドラインは、その費用のすべてを借り手が負担するのは、大家さんが利益を得すぎる結果になるとしている。その部屋の一面分程度を替える費用のうち、残存価値分を負担すればいいという判断が示されている。 (松浦新)

 ここまでが2005年11月12日の朝日新聞に掲載されたものです。



朝日新聞の上記の円グラフの内側の合計は100%ではなく、101%になっている。記入ミスかもしれない。

今回の朝日新聞の調査で気になったのは、敷金が「どのくらい戻るべきと考えるか」の質問に対して敷金は「戻らないもの」と考えている人が5%もおり、「追加料金まで取られたくない」の5%を加えると敷金が「戻らないもの」と考えている借主が10%もいるということである。

国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しているが、それを知っていると答えた人は11%であた。敷金は「戻らないもの」と考える人が多いのは、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が普及していないことが原因しているのかも知れない。

原状回復費用は借主の故意・過失及び善管注意義務違反による損耗以外は支払義務の対象にならない。借主の故意・過失及び善管注意義務違反が無ければ、敷金は全額戻るのが当たり前という世の中に早くしたいものである。


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2005年11月19日
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敷金返還(下)
 実際の交渉は
部屋の記録が決め手に

朝日新聞 2005年11月19日 be on Saturdayより

 賃貸住宅を退居する時の敷金の返金をめぐり、「原状回復」がカギになることを前回説明しました。今回は交渉の具体的な注意点です。少し手間はかかりますが、こうした心構えや準備で思わぬ損失を防ぎましょう。

 Q 敷金の考え方はわかったけど、正当な主張でも実際の交渉で認めさせるのは難しい。具体的にはどうしたらいいの。

 A まず、入居の時から意識しないといけない。国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や日本住宅性能検査協会のマニュアルをもとに上にまとめた表を見てほしい。借りる家が決まったら、キズや汚れをチェックする。問題個所は写真を撮ったり平面図に印をつけたりして記録を作る。大家さんや管理会社に立ち会ってもらい、記録の控えを渡しておく。協力が得られなければ、記録を郵送する。国交省のガイドラインに確認リストがあるので、活用してもいいだろう。

 Q ちょっと大げさすぎない?

 A 新築の貸家は別にして、最初の状態を確認しておくと、トラブルになった時に証拠になる。前回説明したように、借り手が通常の生活をしていてついたキズや汚れは修復する義務がない。もし修復するにしても、壁紙のような内装材は6年で残存価値が1割になる計算で費用を負担すればいい。たとえば、壁紙を張ってからどのくらいたっているかといったことも確認したいね。

 Q 知らない人と同じ鍵は使いたくないから、鍵は新しくしたい。大家さんに交換を求めることはできるの。

 A 大家さんは、借り手が安全に暮らせるような設備を設ける義務がある。退居する時に鍵の交換費用を求められることがあるけど、それは大家さんの責任だから、負担する必要はない。ただし、オリジナルである元々のキーをなくすと抗弁できないから、コピーを作って、元々のキーはきちんと保管しておくようにしたい。鍵をシリンダーごと交換すると、1万2000円前後かかるということだよ。

 Q 借家人賠償責任保険証って何?

 A 火災や爆発事故で、借りた家に被害を与えた場合に保険金が出る保険の保険証だ。最近は入居時の契約で義務づけられることが多い。契約期間は2年が多いので、退居時に期間がきていなかったら、保険会社に中途解約払戻金を請求するのもいいし、次に借りる家の保険に回すこともできる。

 Q 退居する時にも写真を撮っておくの?

 A 精算は退居後だからね。立ち会いの時に、特に指摘がなかったのに、思ったように敷金が返って来ない、なんてこともある。その時には改装が終わっていることが多いから、念のために証拠を残したいよね。

 Q 自分に落ち度がある場合、大家さんの言い値で修理をしなければいけないの?

 A そんなことはない。不当な請求だと思ったら、交渉もできるよ。下の表に修繕費の目安を示したから参考にしてほしい。地域によって相場が違うので、修繕費が高いと思ったら、近所のリフォーム業者に相談してみたらいい。表は新品にする時の費用なので、借り手の責任の度合いに応じて負担は減るはずだ。

 Q 相談に乗ってもらえるところはないの?

 A 不動産適正取引推進機構では国交省のガイドラインが入手できるし、相談にも乗ってくれる。日本住宅性能検査協会は、2万円と交通費で退居する時に立ち会いをしてくれる。また、リカバリジャッジ(本社・名古屋)という会社は今年7月から敷金トラブルの解決サービスを全国展開している。10月からは新サービスを始めた。退居前に2万円でサービスを申し込んでおき、国交省のガイドラインに沿った敷金が戻れば、その2万円が返ってくるんだよ。

 Q どういう仕組みなの?

 A 申し込むと、自分で家の状態を記録するマニュアルやチェックリストが送られてくる。大家さん側から精算書類が届いたら、退居前に作った記録と一緒にリカバリジャッジに郵送する。同社が記録をもとに査定をして、大家さん側の査定より3万5000円超の敷金が戻ると判断した場合で、客である借り手に交渉の意志があればそれを支援する。この場合、大家さんから追加で戻る敷金が2万円以上あれば借り手にメリットがある。借り手が交渉するメリットが少ないと判断した場合は同社に払った2万円が戻るんだ。

 Q もめて裁判になることもあるみたいだね。

 A 簡易裁判所の少額訴訟の制度を利用する人が多いよ。当事者による訴訟が多く、費用は請求額が上限の60万円の場合で1万1600円だ。1日で判決まで出る。日本住宅性能検査協会もリカバリジャッジも簡易裁判まで支援をしてくれる。

(松浦新)


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