大人に翻弄された子ども達
 9月11日に行方不明になっていた幼い兄弟が、同居していた男性から虐待を受け挙
句の果てに、生きたまま川に投げ込まれて命を絶たれてしまったという事件を聞い
て、ショックを受けた人は多かったと思う。捜査が進み、事件の概要が明らかになっ
ていくとともに、この幼児達が同居をしていた男に連れ出され、殺害されたことがわ
かった。普段から虐待を受けていたということや、加害者は犯行時に覚せい剤をして
いたという情報も流れている。

 この事件を受けて、被害者の父親は15日に会見を開いて、同居の経緯や加害者が子
ども達に虐待をしていたことを以前から知っていたことなどを話し、「自分が気をつ
けていれば虐待は防げると思った、自分の考えが甘かった」と言い、「加害者は許せ
ない、目の前にいたら殺してやりたい」と言った。たしかに、いくら被害者の幼児達
の父親が、自分の先輩にあたるために、なにも文句が言えないというストレスを感じ
ていたとしても、たかが3歳と4歳の男の子に対し虐待を繰り返して挙句の果てに殺害
してしまうという加害者の行為は、到底許されるはずは無いものだ。しかし、その原
因を作ってしまったのは、自らも認めてはいるが、やはり被害者の父親だと言えると
思う。

 二人の兄弟は数年前に父親が離婚をしてから、施設に預けられたりしたこともあ
り、今年の6月下旬から加害者家族と同居するようになった。その後虐待が発覚し
て、児童相談所や祖父母宅へ引き取られた時期もあったという。ことのほか仲が良く
お互いを思いやっていたという二人は、ほんの数年しかなかった人生の中で、普通の
大人では体験したことが無いほどの辛い思いをし、お互いを思いやり、かばい合いな
がら生きて来たのだろう。そんな健気な幼い子ども達のことを思うと、余計にやるせ
ない思いがした。
 
 この事件が、まだ単なる行方不明事件として扱われていた時から、兄弟が住んでい
たアパートの映像が何度か画面に映し出されていた。その映像を目にしたとき、狭い
ベランダいっぱいに、とても丁寧にきちんと洗濯物干されていたのがとても印象的
だった。事件の背景を知らなかった当初は、「ああ、几帳面でまめなお母さんのお子
さんなんだな、小さい子が二人も行方不明さぞ心配だろう」と思っていたのだが、実
際にはここの家には、離婚をした父親達が子ども達と暮らしていて、11歳になる加害
者の長女が、掃除や洗濯など全てをやっていたのだというのを聞いて驚いた。つま
り、私が目にしたあの几帳面に干された洗濯物は、その長女が干したものだったの
だ。もし加害者の長女が、幼い兄弟達にあまりいい感情を持っていないとしたら、幼
児達の小さな洋服を、一枚一枚丁寧にハンガーにかけて干すようなことが出来ただろ
うか。
 
 Asahi.com栃木によると事件当日のことを幼児達の父親はこう話している。「朝8
時半に仮眠を取るつもりで横になったとき、下山が出かけるのを見た。その後、下山
の娘が『流しそうめんに行くんだけど、一斗と隼人、連れてっていいかな』と言うの
で、『お願いね』と送り出して寝た。」11歳の長女の何気ない面倒見のよさは、幼児
達の父親とのやり取りにも、あの洗濯物の扱いにも現れているように私には思える。
しかし、加害者が幼児を殺害した時、加害者の長女と長男は車の中にいたのだ。しか
も一部の報道では、その長女は加害者が幼児を殺害したと思われる時、自分が寝てい
た車の外から二人の幼児の激しい鳴き声を聞いたと話しているという。自分が面倒を
見てきた幼児達を、自分の父親が殺害する現場に居合わせてしまった彼女は、今どん
な気持ちでいるだろうか?
 
 またAsahi.com栃木によると、「長女が下山容疑者の娘と同級生で仲良しだったと
いう会社員の女性(38)は、自分の長女が最近、夜に眠れないことを悩んでいる。
「娘は事件にものすごいショックを受け、涙を流している」という。大人達の無責任
な行為によって運命を翻弄されたり、心に傷を負ってしまった子ども達。この事件の
被害者は命を奪われてしまった幼い子ども達だけではないのではないかと私は思う。
(記事参照:asahi.com 栃木 http://mytown.asahi.com/tochigi/)