テロで戦争の悲惨さを実感する
 9月1日に、ロシア南部・北オセチア共和国のベスランで武装集団が学校を占拠して
立てこもるというテロ事件が発生した。3日間にも及んだ犯行の結末は、多くの幼い
命を奪い終結した。この報道を見ていた我が家の子供たちが、「なんであんなことを
するの?」と泣きそうな顔をして私に聞いて来た。私は言葉に詰まってしまったが、
「戦争だから」とだけ答えた。

 事件当日、学校では入学式が行われていたために、人質の中には生徒や先生だけで
はなく、入学式に同席していた生徒の家族も含まれていた。そのために、乳幼児まで
もが人質として身柄を拘束されていた。世話焼きで小さい子が大好きな長女は、「な
んであんな小さな子まで人質にするの!」とまるで自分のことのように怒っていた。
事件発生から3日目に入り、突然銃撃戦が始まった。その銃口の先には逃げ惑う幼い
子ども達の背中があった。その映像を目にしたとき、もう娘も息子もただ唖然として
いた。それから、悲しい顔つきでじっと画面を見つめていた。

 ここのところ、世界各地でテロ事件が多発している。また、アメリカで9月11日に
起きた大規模なテロ事件から、もうすぐ3年になるせいか、そのときの映像も目にす
る機会が多い。どのテロ事件現場の映像も、目をそむけたくなるような悲惨なものば
かりだ。3年前にアメリカで5000人以上もの犠牲者を出したテロ事件が発生した時、
私は我が家の子ども達とテロや戦争について話をした覚えがある。しかし、今回の事
件ほど子ども達にとってインパクトが大きかったものはないかもしれない。それは、
3年前にはまだ小学校の低学年だった子ども達には、どんなに私が事の重大さを話し
て聞かしても、とても大変なことが起きたという認識くらいしか出来なかったのだろ
う。
 
 しかし、今は中学生2年生と小学6年生になり、その当時より少しは色々なことを理
解できるようにもなってきたこと。しかも今回犠牲になった人の大半が自分達と殆ど
年齢の変わらない子ども達だったということだというも、大きなショックを受けるこ
とになったのかもしれない。「戦争だから」と答えた私に向って、息子は「あれはテ
ロなんでしょ?」とまた聞いて来た。すると「テロも戦争だよ!」とムッとした顔の
娘が息子に向って答えた。私も頷いて「そうだよ、テロっていうのは、方法の呼び名
みたいなものだから、戦争には変わりないんだよ」と言った。息子は神妙な顔をして
黙り込んでしまった。
  
 しばらくして息子がまた私のところに来た、そして困ったような顔をしてこう言っ
た。
「オレのクラスに、戦争・・・っていうか軍隊に憧れているやつがいるんだよ」驚い
て何か言おうとして私を制して、息子は言葉を続けた「でね、そいつが。『日本にも
アメリカみたいに軍隊を作れば良いんだ。だめなら、アメリカ軍に入れてもらえばい
いのに』って言うんだよ」私は一瞬なんと言っていいのかわからなかった。続けて息
子に話を聞いてみると、そのクラスメートはロボットの戦争もののアニメに憧れてい
るのだという。そして、そのアニメへの憧れからか、軍隊があればいいと言い、軍隊
があれば自分達の国も護る事ができるんだと主張していたらしい。

 連日の報道で、日本もテロの標的に入っていることは子ども達も知っている。だか
らこそ、自分達で護らなくちゃいけないのだという部分と、戦争の兵器の外見的な
カッコよさに惹かれている部分とが、そのクラスメートの中ではごっちゃになってい
て、そんなことを言い出したのだろう。私は息子に静かに「あなたはどう思う?」と
聞いた。息子は少し考えて「自分達のことは自分達で護らなきゃいけないのかもしれ
ないけど、でも戦争絶対よくないことだし、アメリカ軍にいれてもらうっていうのも
違う気がする」と言った。そして「明日また、そいつと話をしてみる。やっぱり戦争
はしちゃいけないと思うから」と言った。