アテネオリンピックに思うこと
 17日間に渡って、熱戦が繰り広げられたアテネオリンピックが終わった。金メダル
16個を含む、史上初の37個のメダルを獲得したことをはじめ、日本選手団の活躍に連
日深夜まで声援を送った人も多いと思う。

 そのなかで、解説の方や試合を終えた選手の方が、よく口にしていた言葉があっ
た。それは、「自分の柔道(泳ぎ)ができたので勝てました」とか、「自分の試合が
できなかったので負けました」という言葉だった。つまり、自分の持つ実力の全て出
すことが、試合に勝つことができたということだ。これは、日本の各選手が欧米の選
手達に引けを取らない実力を身につけるようになっているということなのだと思う。
そして、その自分の実力を、自分が信じることで、冷静に試合に臨むことができ、結
果的に勝利を導くことができたのだと思う。

 4年に一度開催されるオリンピックという、世界の頂点に位置する大会で、自分ら
しい試合をするということは、並大抵のことではできないだろうということは簡単に
想像できる。それを可能にする、ために必要な「自分を信じるということ」これは、
それぞれの選手が、苦しくつらい練習をひたむきにこなして、自分の中に積み重ねて
きたものなのだと思う。ある選手は「今まで泳いできた距離が、自分を信じる力にな
りました」と語っていた。

 たとえ、結果的にメダルを獲得することができなかったとしても、自分のもてるも
のの全てを、オリンピックという舞台で出し切ることができた選手の表情は、とても
すがすがしく輝いて見えた。それは、それまでひたむきに努力し、打ち込んできた自
分を信じることができた者だけが、見せることのできる笑顔なのだと思う。

 ドーピングの問題で、最後までバタバタとしたハンマー投げは、結局、室伏選手が
繰り上がり金メダルを獲得することになった。その室伏選手が、会見でメダルの裏に
書いてあったという古代ギリシャ語の日本語訳を報道陣に配った。
 詩は「真実の母オリンピアよ あなたの子供達が 競技で勝利を勝ちえた時 永遠
の栄誉(黄金)をあたえよ それを証明できるのは 真実の母オリンピア 古代詩人
ピンダロス」。
 室伏選手は詩を読み上げた後、「金メダルを期待していただくのは本当にうれし
い。でも、金メダルよりも重要なものがほかにもたくさんあるんじゃないか。スポー
ツ、オリンピックを別の角度から見ることができるのでは。(この詩の)真実という
のが印象に残った」と切々と語ったという。会見の冒頭、笑顔はなく、「本当は、メ
ダルを直接、表彰台で受け取りたかったのが本音」と明かした。だが、すぐに「本当
に大切なのは、メダルへ向けて努力していくことだと、今も思っている」と、7日前
に手にしたメダルの色に十分満足していた気持ちを改めて強調した。

 つい私たちは、メダルという結果ばかりを追い求めてしまいがちなってしまう。ド
ーピングという違反行為も、結局、自分の力を信じきることができず、結果ばかりを
求めてしまったことから起きてしまうのだろう。しかし、室伏選手が言うように、何
かの目標に向かって努力し、自分の中にその努力の結果を積み重ねていくことが一番
大切なのだと思う。

 そしてこれは、私たちの日々の生活の中でも、いえることなのではないかと思っ
た。オリンピックに参加した、各選手の方々、そしてその関係者の方々、本当にお疲
れ様でした。そして、私たちに、熱い感動と本当に大切なものの存在を教えてくれて
ありがとう。