見えない壁(百分の1秒をめがけて)
我家の子供達は、レーシングカートをやっている。
遊園地のゴーカートのエンジン付きのものでレース
をするのだ。普段は何気なく通り過ぎてしまう、
1分にも満たない時間。しかし、それがカート場
ではとてつもなく長い時間感じる。コースによって
多少の違いはあるものの、大体のコースが40秒
前後で1周することができる。レースになると、
その1周のタイムによって予選を走る順位が決まる。
そしてとらえどころの無い1秒の何百分の1とい
う時間を、ライバル達と競いあうことになるからだ。
一瞬たりとも気の抜けない時間を、何度も何度も過
ごしながら、子供達のトライは続いていく。
その様子を、私はコース脇のPITから息を呑んで
見守っているのだ。子供達のトライの結果を知って
いるのは、私の手に握られた、ストップウォッチ
だけである。なかなか破ることが出来なかった見え
ない時間の壁を、見事に乗り越えてくれた瞬間を、
私に教えてくれたのも、このストップウォッチだった。
どんなに暑い灼熱の夏も、手が切れそうに寒い木枯
らしが吹く冬の日も、ストップウォッチは私と一緒
に子供達の走りを見守ってくれて、子供達の成長を
私に教えてくれたのもこのストップウォッチだった。

きっとこれからも、ずっとずっと、見えない壁への
トライは続いて行くことだろう。そして私は、この
ストップウォッチと共に、それを見守りつづけて行
きたいと思う。