春霞
「暑さ寒さも彼岸まで」とよくいうが、お彼岸の鎌倉はまだ寒かった。ガラス越しの陽射しは、かなり温かかったが、外はまだ風が冷たく感じた。

それでも、見なれた鎌倉の山越しの東京湾は、微かに霞んで見えた。山のあちこちには梅の花が咲き、桜の枝先は、咲き始めるのを待つだけになった桜の蕾で、うっすらと紅を差したように色づいていた。

春の山の稜線が、うっすらと霞んで見えるのは、きっと春霞のせいだけではなく、こんな春の訪れを待つ花達の色づきのせいでもあるのだろう

暖冬といわれた今年だが、思ったよりは春の訪れは遅くなりそうだ。

それでも娘は、桜が咲く頃には自分も中学生になるせいか、こぼれ落ちそうに膨らんだ桜の蕾を指差して「もう咲きそうだね」と嬉しそうに笑っていた。

その娘の頬の色と、山の稜線のすこしぼやけた薄もも色と重なっているのを見ていたら

春が来るのを、もう少しだけゆっくり待っても良いんじゃないかな?

そんな気持ちにさせてくれる景色だった