どうしてくれるのよ!
 あれはもう10年ぐらい前のこと、まだ2歳だった娘の予防接種に
行った時のことです。開始の時間ギリギリに会場に着いたにも係わら
ず、すでに受付を待つ長い行列が出来てしまっていました。その中に
は、注射が恐いのか?もう泣き出しそうな子もいてかなり騒然とした雰
囲気でしたが、そんな中でも娘はかなりご機嫌でした。下の子が生まれ
てから久しぶりの私と二人だけのお出かけだったからかもしれません。
また私は、長女であった娘の予防接種に関して、計画的に割りと早い
月齢で全て済ませていたので、娘にしたら「注射は痛い」という先入
観もその時はなかったのかも知れません。
 しかし、実際に注射が始まると「痛いー」という泣き声や、「やだぁ
ー」と叫ぶ声が会場の外にまで漏れてくるようになりました。(せっか
く機嫌がいいのに、こんな声を聞いて注射をする前から泣かれたら大
変だ)と思った私は、娘に向かって。「あのね、ちょっとチクンってす
るけど、痛くないし、恐くもからね」と言いました。すると娘は、「大
丈夫。私お姉ちゃんだから恐くないもん」と答えていました。
 いざ、娘の順番になりました。担当の先生は、若いお医者さんで、いかにも当番だ
から仕方がない、といった態度の人でした。面倒臭そ
うな顔のお医者さんが「ちょっとチクンとするよ」と棒読みのセリフ
を言い終わるか終わらないかの時です。「痛い!イタイ、イタイ、イタ
イ!」と、まるでおばさんのような声がしました、うちの娘の声でし
た。その声に、それまで泣き声で騒然としていた会場も、一瞬シーン。
しかも、若いお医者さんが手を離すと、娘の腕の注射をしたところに、
プクッと小さな血の跡が…。するとあろうことか娘は、ギッとお医者
さんを睨みつけて、「どうしてくれるのよ!血が出たじゃないのよ!」
と食って掛かったのです。面食らったお医者さんは「すいませんでし
た」と一言。
 私はその場をどう取り繕って良いのか分からず、ただ平謝りに謝り。
早々に会場を後にしたことは言うまでもありません。