羽を休める場所
今、私の友達が傷ついている

私のくせっけを、上手になだめてくれる、魔法の手の持ち主。行き付けの美容院の友達だ

彼女は私と同い年だが、今は女手一人で、二人の娘さんを育てている。若い頃には、鈴鹿の4時間耐久にスカウトされたこともある、という女性ライダーだった

しかし、もう少しで話しがまとまる!というところで、転倒による怪我で駄目になってしまった

そのあといろいろあって美容師になった。もともと感性が豊かで、手先が器用だった彼女は、美容師としてもなかなかいい腕を持っていた

離婚した後、子供を育てながらも、数年前に自分の店を持った。彼女の店は繁盛していて、いつ行っても待たされたが、私はどうしても彼女に切って欲しくて。電車を乗り継いで通っていた

お店は年配のお客さんも多く、通りすがりにご婦人が「今日も一杯かしら?明日来るわね」と覗いては帰って行くことも珍しくはなかった

しかし、腸に持病を抱えていた彼女は、過労で倒れてしまいドクターストップで、やむなくお店を閉めることにしたのだ

話しを聞いて、私はさっそく親友と二人で彼女のお店に手伝いに行った

噂を聞いた人達が、次々に彼女に会いにやって来た

実は彼女は、体だけではなくて心も傷ついてしまっていた
。子供達のこれからのこと、年老いていく親のこと、そして繁盛はしていてもまだまだ借金だらけの店の経営。それらを一人で抱え込んで、必死に踏ん張って来た

しかし彼女は頑張り過ぎてしまい、体を壊してしまい、自信もなくしてしまったのだ

お店が少し落ちついて、お店を手伝っている娘さんも一緒にお茶を飲んだ。私たちは、彼女の好きなアールグレイの紅茶をさし入れに持って行ったのだ

少しホッとしたのか、友達は声を詰まらせて泣き出した

親友が彼女の肩を抱いて、そっと背中をトントンとたたいて「いいんだよ、そんなこと言わなくても」と言って、私のことをそっと見た

「今まで一杯頑張ったんだから、もう頑張らなくてもいいからね」私が言った。彼女の羽を休める場所に私たちがなれたらと、私は心からそう思った