元旦の風景 〜我家のお雑煮〜
 父が、兄弟で起こした会社の総務部長を勤めていたせいか、我家は元旦から
人の出入りが絶えない家だった。

子供としてはお客さんが多いほうがお年玉の入
りも多くなるので嬉しいのだが、その反面、客をもてなすための準備に、いろいろ
とこき使われることになる。

 「餅は貧乏人の子に焼かせろ!」とよく言うが、私は根が貧乏性なのか? 小さい時から餅を焼くのが上手かったので、いつも台所
の片隅で餅焼き当番をさせられていた。

 我家のお雑煮は、澄まし汁で仕立てた関東では良く見られるとてもシンプルなものである。

程よく焼き色がついた餅を、お雑煮用の少し大きめのおわんに行儀良く2つ並べる。そこへ切り三つ葉を少し乗せ、小さく切った鶏肉と姫なるとの入った熱いおすましを注ぐ。

ユラユラと立ち上る湯気の中からは、お出汁のいい匂いと共にすがすがしい三つ葉の薫りが、ほのかに薫っていた。

 煮込んでいない餅は、最後の一口になるまで角が白くてシャンとしていた。その餅の角の几帳面さが、和服姿にピシッとノリの利いた割烹着を着て、忙しく立ち働いていた母の、キッチリあわせた襟元や足袋の白さと重なって見えた。

ほんのりピンクの姫なるとは、ほろ酔い加減のお客さん達の顔の色ともダブって見えた。

我家の元旦の風景が、お雑煮の中に映っていた。