契約書に償却特約が書かれていたが
2007年10月17日

 木村さんは7年間住んでいた台東区東上野のマンションを4月30日に退室した。引越の際に玄関に備付けられていた履物入れを誤って処分してしまった。その過失に対する弁償費用は当然覚悟していた。
 だが、それ以外の故意・過失による損耗は見当らない。保証金(敷金)として家賃の4か月分(36万円)を預託していたので、よもや敷金を超える修復費用の請求はあるまいと考えていた。
 (なお、契約書には「敷金」という文言は使われておらず、「保証金」と書かれていた。仮に契約書に保証金と書かれていても居住用借家の場合、実態は敷金である場合が多い。今回の契約書でも、その実態は敷金である。)
 ところが、退室の1週間後に修復費用の見積書が不動産管理会社から届けられた。請求金額を見て呆れ返った、82万5477円である。余りに高額な原状回復請求に対して、不動産管理会社の担当者に文句を言ったが、埒が明かなかった。担当者は取敢えず家主に値引き交渉をしてみるので、請求に関しては保留にして貰いたいという返事であった。
 数日後、管理会社から総額60万1739円の「解約清算書」が送られて来た。その内訳は内装・清掃工事代41万2739円(前回請求の半額)及び解約償却費18万9000円(消費税9000円を含む)である。預託敷金36万円を差引いても24万1739円の不足があるという内容だ。
 木村さんは請求金額に納得がいかず、借地借家人組合へ相談した。組合から原状回復に対する判例の動向等の説明を聞き、敷金を取り返せると確信して借地借家人組合に加入した。
 組合で見積書の内容を点検してみた。その内訳は、洗面化粧台交換1式7万5000円、キッチン、ガス台、及び吊戸棚交換1式10万3000円、レンジフード交換1式3万7500円等である。これは修復を目的とした原状回復工事の内容ではなく、改装を目的としたリフォーム工事である。リフォーム工事は借主の原状回復義務の対象外であり、借主に費用負担の義務がないことは当然のことである。
 また、契約書には「期間満了にて、解約(中途解約も含む)のときは、賃料の2ヶ月分に相当する¥18万円を償却費として借主は貸主に支払うものとする」という特約が書かれていた。
 この「償却特約」は、貸主が一方的に預託金から家賃の数か月分を理由も・根拠もなく差引くというもので、借主に著しく不利益な特約として消費者契約法10条に抵触し、無効になる可能性の高い問題がある特約だ。そもそも敷金の場合、その性質から償却ということはありえない。
 償却費が高額でない場合、償却特約を認める判例も存在する。その場合、差引かれる償却費に修復費が含まれるというのが判例である(大阪高裁平成6年12月13日判決)。
 従って組合は、敷金全額36万円の返還を主張するのではなく、償却部分を除いた18万円の返還での解決を提案した。木村さんは敷金を超える追加請求がなければ了解するということであった。
 7月26日、組合は取敢えず家主へ敷金の全額返還請求を求める文書を組合名で送り、8月3日までに現金書留で送金するよう要請した。期日までに返金がない場合は、東京簡易裁判へ所敷金返還請求訴訟の手続を行うことを書き添えておいた。
 7月30日、家主からではなく、不動産管理会社の担当者から組合に電話が入った。担当者と交渉の結果、予定通りの結論(履物入れの弁償も含め、償却費で総て賄うということ)で決着した。
 8月3日、木村さん宅へ18万円が現金書留で届けられた。


台東借地借家人組合 
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