おばあちゃんに逢えたかな?
先日、小学六年生になる息子が「夏目雅子さんってなにやってた人?」と聞いて来
た。「女優さんだよ。もう随分前に、白血病で亡くなっちゃったけど」と私が答える
と、「そっか、女優さんか〜」と言った後、「あのさ、ドナーってなに?」とまた聞
いて来た。「ドナーっていうのは、臓器や骨髄の提供者のことだよ」と説明すると、
「骨髄移植が出来たら、白血病は治るの?」と聞いて来た。「100%とは言えないと
思うけど、助かる人は沢山いると思うよ」と言うと、「ドナー登録があったら、オレ
もおばあちゃんに逢えたかな?」とポツリと言った。

「あの頃、もし日本に骨髄バンクがあり、あなたのドナー登録があったなら、きっと
僕らは、46歳の夏目雅子さんに会えたにちがいない。」
(公共広告機構 2003年度版 全国キャンペーン骨髄バンク−夏目雅子編−
http://www.ad-c.or.jp/campaign/all/2003_2.html)というCMを息子はみて、そう
思ったらしい。息子が言う「おばあちゃん」とは、私の母のことである。息子が産ま
れる1年半ほど前に、白血病で亡くなった、56歳だった。母が白血病になるまで、私
にとって「白血病」とは、ドラマのヒロインが突然侵される病気というようなイメー
ジがあって、身近な病気だとは思っていなかった。夏目雅子さんのニュースを聞いた
時も、かなり驚いたが「美人薄命とは、夏目さんの為の言葉だな〜」などと、漠然と
思う程度だった。

しかし、母を急性の白血病で亡くしたことで、それは現実に目の前にある病気の一つ
として存在するようになった。それからしばらくして、屈強で有名だったK‐1ファ
イターのアンディ・フグ選手が、急性の白血病で倒れてしまった。そのニュースを聞
いた時には、「あのアンディでさえも勝てない病気なのか」と私は愕然としたが、ア
ンディのFANであった子ども達も、ショックだったらしい。そして、2年前、息子
のクラスメイトのお母さんも、30代半ばという若さで白血病に倒れ、帰らぬ人となっ
てしまった。息子にとっても白血病は、身近に起こりうる現実の病気の一つなのだ。
そして、「おばあちゃんに逢えたかな?」と言った言葉の裏には、クラスメイトの子
も、お母さんと別れずに済んだかなという意味もあったらしい。突然息子は、「オレ
もドナー登録するよ。だって、助かる人いるんでしょ?」と言い出した。「ちょっと
待って、ドナー登録は、20歳過ぎないと出来ないのよ」と言うと、「じゃあ大人に
なったら、絶対する!」と言った。しかし、しばらくしてから「でもさ、痛くないの
かな?」と急に不安そうな顔で聞いて来た。

私達も、「ドナー登録」という言葉は知っているが、実際にどのようなことをするの
かを知っている人は少ないと思う。調べてみると、20歳以上という条件の他にもいろ
いろと条件がある(詳しくは、骨髄移植推進財団へ。0120-445-445 
http://www.jmdp.or.jp/index.html)のだが、始めは10ccの採血から始めるらし
い。一緒にHPを覗きこんでいた息子は、「結構勇気いるよね、ドナーになるのっ
て」と言った。「確かに勇気がいることだと思う。でもね、パパもママも大きな手術
を受けたことがあって、輸血をしたことがあるから、ドナー登録が出来ないんだ」と
息子に言うと。しばらくじっと考えてから、大きく息を吸いこんで、「勇気は要るけ
ど、やっぱりオレ、大人になったらドナー登録するよ」と、私の目をしっかり見なが
ら言った。