少子化時代のこどもと社会: 「ひきこもりからの脱出」
先日、中学1年の娘と話しをしていて驚いた。娘の中学にも不登校の子が3人もいると
言うのだ。中には小学校時代から、私も良く知っている子の名前まであった。
「不登校になってしまった原因はなんなの?」と娘に聞いてみたが、クラスが違う事
もあり、娘も詳細は知らないらしかった。

今年8月、文科省が発表した学校基本調査速報によると、昨年度の「不登校」を理由
とする長期欠席者数(年間30日以上)は13万1211人(前年度比7511人減)と発表され
た。1975年以来27年間増加し続けた不登校者数は、はじめて減少した。全児童数に占
める割合も0・05ポイント減少の1・18%となった。文科省は減少に対し「熱心な取り
組みが数字として現れた」と評価する一方「依然として憂慮すべき状況」と話した。
減少傾向に向っているとは言うものの、依然とて13万人強もの不登校者がいる事を
知って、その数の多さに驚いたのは私だけではないのではないだろう。

娘とその話しをしながら、私はある少年のことを思い出していた。それは、今から約
5年ほど前のことだった。私がインターネットをはじめたばかりの頃で、あるコミュ
ニティサイトに登録していた。そのサイトでは、自分の日記を公開したり、同じ趣味
を持つ人達と一緒にグループを作り、そこで掲示板を使って意見を交換したり、チャ
ットと呼ばれる、インターネットの画面上で複数の人と話しができるシステムで会話
を楽しんだりしていた。

ある日、一人の青年がチャットで私に話しかけて来た。彼は自分のことを、大学生だ
と言っていた。同じ趣味を持っていたせいか、かなり年令差があるにも係わらずそれ
なりに会話ができていた。私が日記に、我家の子ども達との平凡だけどドタバタとし
て日常の育児の様子や、週末に外出した時のことなどを書いていた事もあり、その事
について話すことも良くあった。そんな日が続いていた時、彼が私にメールをくれ
た。実は彼は、大学生ではなく不登校の高校生だったのだ。

それからしばらくし、私と不登校少年のメールのやり取りやチャットでの会話が頻繁
に行なわれるようになった。彼は私に、カミングアウトしたつもりだったらしいのだ
が私があまり驚かなかった事。事情を知ってからも、そのまま普通に接していた事も
あったのか。少しづつ事情を話してくれた。

彼は、高校受験に失敗してしまった。取り敢えず第2志望の学校に通学する事になっ
たのだが、第1志望の学校に落ちたというショックと、入学した学校のレベルの低さ
に勉強をする気が起きなかったらしい。そのうち、楽勝だったはずの成績もガクンと
落ちてしまった。その事をキッカケに、街の人達が皆、自分が第1志望の学校に落ち
た事や、今通っている学校でも成績が悪いことなどを知っているような気がしてき
て、表に出るのが恐くなってしまったらしい。夏休みを境に、彼は学校に行かなくな
り、自室に引きこもる生活を送るようになってしまい、もう半年近く経つという事
だった。

私は彼の話しを、基本的になるべく受け入れて聞くようにしていた。彼は彼なりに、
悩み必死に闘っているのが見えたからだ。彼と話し初めて約半年経った頃の事だっ
た。彼から来たメールに「あなたの日記を読んでいるうちに、僕も表に出て見たくな
りました」と一言書いてあった。そして「話しを聞いてくれてありがとう」と言う言
葉で、そのメールは締めくくられていた。

それから、彼はそのサイトには顔を出さなくなり、私にもメールが届く事は2度と無
かった。彼なりに、自分で表に出るキッカケを見つけたのだろう。彼が胸を張って表
を歩いている事を私は今でも陰ながら願っている。そして、娘の学校や全国にいる不
登校になってしまった子ども達にも、なにかいいキッカケが訪れ、元の生活に戻って
元気に青春時代を送る事ができるように、心のそこから願いたいと思う。