2003 12/02 14:07
Category : 日記
最近、幼児虐待によって子ども達が命を落としてしまったというニュースをよく耳に
する。特に先日は、母親だけではなくその子の祖母までもが虐待を加えていたという
報道まであり、これには本当に驚いた。
私は、この幼児虐待という言葉を聞くと、ある少女の事を思い出す。
その少女と会ったのは、もう20年以上も前の事だった。その頃私は学生で、ある団
体に所属していた。その団体は、ボランティア年に数回で養護施設を訪問し、様々な
由で親と一緒に暮らすことができなくなってしまった子ども達に、手作りの紙芝居を
見せたり、一緒に遊んだりしていた。
その少女に始めて出会ったのは、冬の初めの丁度今ぐらいの季節だった。私達は、ク
リスマスにちなんだ話の手作り紙芝居を上演し、その後で子ども達と一緒に色画用紙
に折り紙を貼りつけてクリスマスの飾り作りを企画した。そして当日、集会室で紙芝
居を上演している時の事。私は、誰かが入口からそっと覗きこんでいるのに気がつい
た。紙芝居が始まってしまって、入りづらいのかな?と思った私が廊下に出てみる
と、5〜6歳くらいの少女が立っていた。少女は、大きな目で上目遣いにじっと私を
見ていたのだが、私が近づいていくと、おびえたような顔をしてズリズリと後ずさり
をした。
良くみると、片手で妹らしい子の手を握り締めていた。そして、その少女の上唇の上
には、くっきりと紫色の筋がついていた。後ずさりをした彼女は、その筋の上に下唇
を重ねてかみ締めて、グッとあごを引いてさらに上目遣いで私のことを見て来た。慣
れない人がいきなり近づいて来て恐かったのだろう。そう思った私は、部屋に引き返
して、見本用に作って来たクリスマスの飾りを2つ持ってまた、廊下に出た。少女
は、またドアから中の様子を覗き込もうとしているところだった。
彼女は、私が差し出した飾りを見てまた後ずさりをしたが、妹の方が手を出してきた
ので、私は「後でこういうのを作るから、良かったら作りにおいでね」と言った。彼
女は慌てて、妹の手を引きを自分の後ろに隠すようにした。私は、彼女が抱えていた
熊の人形に持たせるようにしてその飾りを渡した「クマちゃんが欲しいって言うか
ら、これはこの子に上げるから、あなたも後で作りに来てね」するとまた、彼女は後
ずさりをし、妹の手を引いてどこかへ去ってしまった。
紙芝居が終わり、飾り作りが始まってしばらくしてから、彼女は施設の職員さんと一
緒に部屋に現れ、飾りを作る輪に加わっていた。他の職員の方が、彼女達が母親から
虐待を受けていて、ここに来たばかりなのだということを教えてくれた。あんな小さ
な体で、ずっと妹のことをかばいながら過ごして来たのだろう。彼女はあの大きな目
でなにを見て来たのだろうか? 辛い思いをしながら、ずっとずっと上唇をかみ締め
て耐えて来たのだろう。そう思っただけで、私は切なくて涙があふれて来そうだっ
た。
飾り作りも盛況のうちに終わり、私達が後片づけを終えて帰ろうと思った時。施設の
子ども達や職員の方々が、玄関まで見送りに出てくれた。その中に、あの少女の姿が
あった。すると、職員の人に付き添われてその彼女が私の前に歩いて来た。そして、
なんと、自分でさっき作った飾りを、私に向って差し出して来た。「あなたにもらっ
て欲しいそうです」職員の方が、ニッコリ笑って私にそう言った。多分、私が上げた
飾りの代わりのつもりなのだろう。私は、最初驚いて声が出ず、彼女の前にしゃがみ
こんで、彼女を抱きしめて「ありがとう」と言うのがやっとだった。すると彼女は、
コックリと頷いてくれた。その時、上唇はかみ締めてはいなかった。
翌年私は、卒業して就職してしまい、その団体も辞めてしまったので、それから彼女
に会うことはなかった。あれから、彼女に優しく平穏な日々が訪れていることを、陰
ながら願うしだけだった。親からの虐待によって命をおとしてしまった子は元より、
虐待を受け心に傷を負ってしまった子もまた切ない。彼女のような子どもが、これか
らさき現れることが無いように、心から願わずにはいられない。
する。特に先日は、母親だけではなくその子の祖母までもが虐待を加えていたという
報道まであり、これには本当に驚いた。
私は、この幼児虐待という言葉を聞くと、ある少女の事を思い出す。
その少女と会ったのは、もう20年以上も前の事だった。その頃私は学生で、ある団
体に所属していた。その団体は、ボランティア年に数回で養護施設を訪問し、様々な
由で親と一緒に暮らすことができなくなってしまった子ども達に、手作りの紙芝居を
見せたり、一緒に遊んだりしていた。
その少女に始めて出会ったのは、冬の初めの丁度今ぐらいの季節だった。私達は、ク
リスマスにちなんだ話の手作り紙芝居を上演し、その後で子ども達と一緒に色画用紙
に折り紙を貼りつけてクリスマスの飾り作りを企画した。そして当日、集会室で紙芝
居を上演している時の事。私は、誰かが入口からそっと覗きこんでいるのに気がつい
た。紙芝居が始まってしまって、入りづらいのかな?と思った私が廊下に出てみる
と、5〜6歳くらいの少女が立っていた。少女は、大きな目で上目遣いにじっと私を
見ていたのだが、私が近づいていくと、おびえたような顔をしてズリズリと後ずさり
をした。
良くみると、片手で妹らしい子の手を握り締めていた。そして、その少女の上唇の上
には、くっきりと紫色の筋がついていた。後ずさりをした彼女は、その筋の上に下唇
を重ねてかみ締めて、グッとあごを引いてさらに上目遣いで私のことを見て来た。慣
れない人がいきなり近づいて来て恐かったのだろう。そう思った私は、部屋に引き返
して、見本用に作って来たクリスマスの飾りを2つ持ってまた、廊下に出た。少女
は、またドアから中の様子を覗き込もうとしているところだった。
彼女は、私が差し出した飾りを見てまた後ずさりをしたが、妹の方が手を出してきた
ので、私は「後でこういうのを作るから、良かったら作りにおいでね」と言った。彼
女は慌てて、妹の手を引きを自分の後ろに隠すようにした。私は、彼女が抱えていた
熊の人形に持たせるようにしてその飾りを渡した「クマちゃんが欲しいって言うか
ら、これはこの子に上げるから、あなたも後で作りに来てね」するとまた、彼女は後
ずさりをし、妹の手を引いてどこかへ去ってしまった。
紙芝居が終わり、飾り作りが始まってしばらくしてから、彼女は施設の職員さんと一
緒に部屋に現れ、飾りを作る輪に加わっていた。他の職員の方が、彼女達が母親から
虐待を受けていて、ここに来たばかりなのだということを教えてくれた。あんな小さ
な体で、ずっと妹のことをかばいながら過ごして来たのだろう。彼女はあの大きな目
でなにを見て来たのだろうか? 辛い思いをしながら、ずっとずっと上唇をかみ締め
て耐えて来たのだろう。そう思っただけで、私は切なくて涙があふれて来そうだっ
た。
飾り作りも盛況のうちに終わり、私達が後片づけを終えて帰ろうと思った時。施設の
子ども達や職員の方々が、玄関まで見送りに出てくれた。その中に、あの少女の姿が
あった。すると、職員の人に付き添われてその彼女が私の前に歩いて来た。そして、
なんと、自分でさっき作った飾りを、私に向って差し出して来た。「あなたにもらっ
て欲しいそうです」職員の方が、ニッコリ笑って私にそう言った。多分、私が上げた
飾りの代わりのつもりなのだろう。私は、最初驚いて声が出ず、彼女の前にしゃがみ
こんで、彼女を抱きしめて「ありがとう」と言うのがやっとだった。すると彼女は、
コックリと頷いてくれた。その時、上唇はかみ締めてはいなかった。
翌年私は、卒業して就職してしまい、その団体も辞めてしまったので、それから彼女
に会うことはなかった。あれから、彼女に優しく平穏な日々が訪れていることを、陰
ながら願うしだけだった。親からの虐待によって命をおとしてしまった子は元より、
虐待を受け心に傷を負ってしまった子もまた切ない。彼女のような子どもが、これか
らさき現れることが無いように、心から願わずにはいられない。