2003 03/06 20:36
Category : 日記
「雨上がりのにじ」
「はーちゃんとりょうくん、急いで帰るしたくをしなさい! あなたたちのお母さんが、会社でたおれて入院したんだって。今お父さんがむかえに来るそうよ」
いつもみたいに学童保育でママのむかえを待っていたら、そう言いながら福田先生がプレイルームにとび込んで来た。
(ママが入院した?なんで?うそでしょ?どうして?どうして?)頭の中に、今朝げんかんで「いってらっしゃい」と手をふってくれた、ママの顔が一杯になっていた。
「ついたよ」とパパの声がした。気がついたら、学校よりもずっと大きなビルの前に車は止まっていた。ママが入院した病院だった。弟のりょうが、のどちんこが見えるくらい大きな口をあけて、ビルを見上げて「でっけ〜」と言った。
ビルの中は少し暗くて、ほけん室みたいなにおいがした。
「あれ?はーちゃんじゃない?」と後ろから声がした。ふりかえるとやさしそうなかんごふさんがコッチを見ていた。(見た事あるような気もするけど、だれだっけ?)と思っていると、「こうちゃんのママ」とパパが言った。
そっか思い出した、こうすけのママだ。こうすけは、保育園から三年生になった今も、ずっといっしょのいじめっ子で、すぐに私にちょっかい出して来てはいじわるをしてくるいやなやつなんだ。こんどは頭の中に、こうすけがいじわるそうにニヤッとわらった顔が大きくうかんで来た。(なんでこんなにやさしそうな人から、こうすけみたいないじわるが生まれまれてきちゃったんだろう?)パパと話しながら歩いているこうすけのママの背中を見ながら、私はすごくふしぎに思った。
まっしろなカーテンの向こうのベッドの上にママがいた。ママのうでから、とうめいなチューブがのびていて、上の方のビンにつながっていて、そこでオレンジ色の水がポタポタと砂時計みたいに落ちていた。ママはすごく顔色が悪かった。(ママが死んじゃう!)って思って「ママしんじゃいやだ〜!」と言おうとした時、りょうがママにとびついてなき出した。
「しんぱいかけてごめんね」って、ママは青白い顔で言った。あんまり大声でりょうが先になきだしたもんだから、私は何も言えなくなってしまった。いつもいつもそうなんだ。りょうはチビだからって、すぐにママにあまえるんだ。なんかおねえちゃんってそんだと思った。
「ほらほら、そんな事したら、もっとママの病気が悪くなっちゃうだろ?」
パパがりょうをママのベッドから下ろして言った。ママが、りょうの頭をなでて、私たちの手をにぎりながら
「しんぱいかけてごめんね、ふたりともパパのお手伝いをしてあげてね?」と言うと、
「はーちゃんとりょうくんがいいこにしていれば、ママはすぐによくなるからね!しんぱいしなくてもだいじょうぶだよ!」とこうすけのママがウインクしながらそう言った。
(そっか、私たちがいい子にしてればママはすぐによくなるんだ! でも、いい子にするって、どうすればいいんだろう?)私はずっとずっと、いい子ってなんだろう?って考えていた。
次の日から、私がママのかわわりに学童保育にりょうをむかえに行って、つれて帰る事になった。でも、りょうはワガママばっかり言ってなかなかキチンと歩こうとしない。とうとう、「ぼくつかれた」って言って、とちゅうの公園のベンチでランドセルを下ろしてすわりこんでしまった。
「より道しちゃだめだよ、りょう。早く帰ろうよ!」って私が言っても、そっぽ向いてる。私はだんだんはらが立ってきた。
「あんたがそんな事ばっかりするから、ママは病気になっちゃったんだからね!」ってつい大きな声でどなってしまった。のどのおくがあつくなってきて、なみだがポロッとこぼれた。すると、りょうも、目にいっぱいためたなみだを、いっしょうけんめいこぼさないように、グッと歯を食いしばってコッチを見てた。(ヤバイ!言いすぎた) と思ったしゅんかん、
「な〜に兄弟ゲンカしてるんだよ!」
後ろから声がした。こうすけだった。(あー、またいじわるされる!)と思った。するとこうすけは、自分の自転車のカゴにりょうのランドセルをヒョイと乗せて、ビックリしているりょうに向かって
「おまえのねえちゃん、おこるとすげーこわいよな?」と言った。そして、
「後ろに乗ってしっかりつまれよ」と言うと、クルッとふりかえって
「オマエは後から帰ってこいよ!お・ね・え・ち・ゃ・ん!」
といつもみたいに、いじわるくニヤッっとわらいながら私にそう言った。何がおこったのかわかんなかった。ん〜?こうすけって、いじめっこなんじゃなかったの?頭の中がグルグルしていた。
「早くしないとおいてくぞ〜!」こうすけの後でえらそうにさけぶりょうに向かって
「ちょっとまってよ〜!」私はそう言って、こうすけの自転車をいっしょうけんめい追いかけた。風を切って走っていると、なんだかすごく気持ちがよかった。
その夜、ふとんに入ってうす暗いてんじょうを見ていたら、またママの事がしんぱいになってきた。(ママはもうねたかな〜?)
すると、となりのふとんからヒックヒックとしゃくりあげる声がする。いつもママといっしょにねてるりょうは、さびしくってねられないらしい。
「うるさいな、私、今日ウンと走ってつかれているだから。しずかにかにしてよ!」と私が言うと、いつもならなにか言い返してくるはずなのに、りょうはヒックヒックないてるままだった。
(しかたがないな。りょうはまだ一年坊主のあまえんぼうなんだもんな)私は、りょうのふとんに入って
「いい子にしてたら、ママが早くよくなるって、こうすけのママも言ってたでしょ?だからもうなかないの」
りょうの顔をのぞきこみながらそう言った。「おねえちゃんなんかママみたい」
そう言ってりょうはしずかに目をつむると、いつのまにかねてしまった。
次の日の帰り道も、こうすけはだまってまた自転車にりょうを乗せて私の前を走っていた。でも、きのうみたいにビュンビュンとばしてはいなかった。
その時、ポツッポツッ・・・いきなり夕立がふり出した。「いけな〜い、せんたく物ほしっぱなしだ!」すると
「オマエはコレに乗って先に帰れ!」自転車を止めてこうすけがさけんだ。
ベランダのせんたく物を全部カゴに入れ終わったころ、途中で雨やどりしていたこうすけとりょうが帰って来た。
「こうすけのおかげでバッチリだよ」と私が言うと、こうすけはちょっとてれくさそうにニヤッとわらった。
「わーきれい!見て見て!」りょうがまどの外を指さした。見上げると雨上がりの空に、きれいなにじがかかっていた。
「はーちゃんとりょうくん、急いで帰るしたくをしなさい! あなたたちのお母さんが、会社でたおれて入院したんだって。今お父さんがむかえに来るそうよ」
いつもみたいに学童保育でママのむかえを待っていたら、そう言いながら福田先生がプレイルームにとび込んで来た。
(ママが入院した?なんで?うそでしょ?どうして?どうして?)頭の中に、今朝げんかんで「いってらっしゃい」と手をふってくれた、ママの顔が一杯になっていた。
「ついたよ」とパパの声がした。気がついたら、学校よりもずっと大きなビルの前に車は止まっていた。ママが入院した病院だった。弟のりょうが、のどちんこが見えるくらい大きな口をあけて、ビルを見上げて「でっけ〜」と言った。
ビルの中は少し暗くて、ほけん室みたいなにおいがした。
「あれ?はーちゃんじゃない?」と後ろから声がした。ふりかえるとやさしそうなかんごふさんがコッチを見ていた。(見た事あるような気もするけど、だれだっけ?)と思っていると、「こうちゃんのママ」とパパが言った。
そっか思い出した、こうすけのママだ。こうすけは、保育園から三年生になった今も、ずっといっしょのいじめっ子で、すぐに私にちょっかい出して来てはいじわるをしてくるいやなやつなんだ。こんどは頭の中に、こうすけがいじわるそうにニヤッとわらった顔が大きくうかんで来た。(なんでこんなにやさしそうな人から、こうすけみたいないじわるが生まれまれてきちゃったんだろう?)パパと話しながら歩いているこうすけのママの背中を見ながら、私はすごくふしぎに思った。
まっしろなカーテンの向こうのベッドの上にママがいた。ママのうでから、とうめいなチューブがのびていて、上の方のビンにつながっていて、そこでオレンジ色の水がポタポタと砂時計みたいに落ちていた。ママはすごく顔色が悪かった。(ママが死んじゃう!)って思って「ママしんじゃいやだ〜!」と言おうとした時、りょうがママにとびついてなき出した。
「しんぱいかけてごめんね」って、ママは青白い顔で言った。あんまり大声でりょうが先になきだしたもんだから、私は何も言えなくなってしまった。いつもいつもそうなんだ。りょうはチビだからって、すぐにママにあまえるんだ。なんかおねえちゃんってそんだと思った。
「ほらほら、そんな事したら、もっとママの病気が悪くなっちゃうだろ?」
パパがりょうをママのベッドから下ろして言った。ママが、りょうの頭をなでて、私たちの手をにぎりながら
「しんぱいかけてごめんね、ふたりともパパのお手伝いをしてあげてね?」と言うと、
「はーちゃんとりょうくんがいいこにしていれば、ママはすぐによくなるからね!しんぱいしなくてもだいじょうぶだよ!」とこうすけのママがウインクしながらそう言った。
(そっか、私たちがいい子にしてればママはすぐによくなるんだ! でも、いい子にするって、どうすればいいんだろう?)私はずっとずっと、いい子ってなんだろう?って考えていた。
次の日から、私がママのかわわりに学童保育にりょうをむかえに行って、つれて帰る事になった。でも、りょうはワガママばっかり言ってなかなかキチンと歩こうとしない。とうとう、「ぼくつかれた」って言って、とちゅうの公園のベンチでランドセルを下ろしてすわりこんでしまった。
「より道しちゃだめだよ、りょう。早く帰ろうよ!」って私が言っても、そっぽ向いてる。私はだんだんはらが立ってきた。
「あんたがそんな事ばっかりするから、ママは病気になっちゃったんだからね!」ってつい大きな声でどなってしまった。のどのおくがあつくなってきて、なみだがポロッとこぼれた。すると、りょうも、目にいっぱいためたなみだを、いっしょうけんめいこぼさないように、グッと歯を食いしばってコッチを見てた。(ヤバイ!言いすぎた) と思ったしゅんかん、
「な〜に兄弟ゲンカしてるんだよ!」
後ろから声がした。こうすけだった。(あー、またいじわるされる!)と思った。するとこうすけは、自分の自転車のカゴにりょうのランドセルをヒョイと乗せて、ビックリしているりょうに向かって
「おまえのねえちゃん、おこるとすげーこわいよな?」と言った。そして、
「後ろに乗ってしっかりつまれよ」と言うと、クルッとふりかえって
「オマエは後から帰ってこいよ!お・ね・え・ち・ゃ・ん!」
といつもみたいに、いじわるくニヤッっとわらいながら私にそう言った。何がおこったのかわかんなかった。ん〜?こうすけって、いじめっこなんじゃなかったの?頭の中がグルグルしていた。
「早くしないとおいてくぞ〜!」こうすけの後でえらそうにさけぶりょうに向かって
「ちょっとまってよ〜!」私はそう言って、こうすけの自転車をいっしょうけんめい追いかけた。風を切って走っていると、なんだかすごく気持ちがよかった。
その夜、ふとんに入ってうす暗いてんじょうを見ていたら、またママの事がしんぱいになってきた。(ママはもうねたかな〜?)
すると、となりのふとんからヒックヒックとしゃくりあげる声がする。いつもママといっしょにねてるりょうは、さびしくってねられないらしい。
「うるさいな、私、今日ウンと走ってつかれているだから。しずかにかにしてよ!」と私が言うと、いつもならなにか言い返してくるはずなのに、りょうはヒックヒックないてるままだった。
(しかたがないな。りょうはまだ一年坊主のあまえんぼうなんだもんな)私は、りょうのふとんに入って
「いい子にしてたら、ママが早くよくなるって、こうすけのママも言ってたでしょ?だからもうなかないの」
りょうの顔をのぞきこみながらそう言った。「おねえちゃんなんかママみたい」
そう言ってりょうはしずかに目をつむると、いつのまにかねてしまった。
次の日の帰り道も、こうすけはだまってまた自転車にりょうを乗せて私の前を走っていた。でも、きのうみたいにビュンビュンとばしてはいなかった。
その時、ポツッポツッ・・・いきなり夕立がふり出した。「いけな〜い、せんたく物ほしっぱなしだ!」すると
「オマエはコレに乗って先に帰れ!」自転車を止めてこうすけがさけんだ。
ベランダのせんたく物を全部カゴに入れ終わったころ、途中で雨やどりしていたこうすけとりょうが帰って来た。
「こうすけのおかげでバッチリだよ」と私が言うと、こうすけはちょっとてれくさそうにニヤッとわらった。
「わーきれい!見て見て!」りょうがまどの外を指さした。見上げると雨上がりの空に、きれいなにじがかかっていた。