オートファジー 現場から
(4) みえてきたオートファジーの意味


 このように激しくおこるオートファジーの重要性を知るために、隔離膜の伸長に必要なAtg5遺伝子をノックアウトし、オートファジーができないマウスを作製した。このマウスはほぼ正常に生まれるが、生後まもなく深刻な栄養不良とエネルギー低下状態になる。特に血中や組織中のアミノ酸濃度が際だって低下する。これはオートファジーが、アミノ酸供給を通じてエネルギー恒常性に関わっていることを示している。
 マウス以外でも、オートファジーのおきない変異体の解析により、実に多彩な異常が観察されている(図8)。出芽酵母では胞子がうまくつくれず、細胞性粘菌ではアメーバ体から子実体への分化ができない。線虫ではダウアー(耐性)幼虫(註2)になれず、ショウジョウバエでは蛹期で死んでしまう。一見無関係と思われるこれらの表現型は、実はすべて栄養飢餓と密接に関係している。胞子形成、子実体形成、ダウアー(耐性)幼虫形成はいずれも飢餓に対する適応反応である。なにも口にすることのないショウジョウバエの蛹はもちろん飢餓状態であり、自分自身(幼虫組織)を栄養源として成虫を形づくるほかない。哺乳類では、へその緒という母親とのつながりが突然切れる出生が強烈な飢餓の引き金となる。つまり、上述したオートファジーが起こらない変異体でみられた異常は、細胞内あるいは個体内でアミノ酸を自給しなくてはならない段階の異常なのである。一方、植物ではオートファジーがおきない変異体は老化が進んだり、種子収量が減ったりするが、基本的にはその生活史(註3)を全うする。栄養状態が悪いからといって簡単に移動できない植物は、種子や根という優れた栄養源や供給経路をもち飢餓に対する何重もの対抗策を備えているということだろう。

【図8 オートファジーの発生や分化に対する影響】

オートファジーを起こさないようにした真核生物は、飢餓と関係する発生段階で異常をおこすことが報告されている。

 飢餓状態でなくともオートファジーは、一定の割合でおきている。これがうまくはたらかないと、細胞内に異常なタンパク質が蓄積してくることもわかっている。つまり、オートファジーには細胞内の一部を一定の割合で無差別に分解する掃除屋としてのはたらきをしているのだ。これはさまざまな神経変性疾患や老化とも関連するので重要な機能である。すなわちオートファジーは栄養制御と細胞内浄化というふたつの大事な役割を持っているのである。最近の研究から、細胞内に侵入した細菌の分解や、細胞内タンパク質の抗原提示などにもオートファジーが関わっていることがわかってきた。長い間謎につつまれていたオートファジーはこのような多彩なはたらきを持ち、これは今後一層広がりを見せるであろうと思わせる。
関連リンク
こちら---リンク先です。