馬がつむぐ夫婦の絆 芦沢勝利・訓子さん /鹿児島
◇第2の人生を楽しむ
 「経済的に豊かな暮らしとは言えない。でもね。精神的収入は大きいですよ」
 自宅の庭に置いたパラソルの下で、芦沢勝利さん(64)と訓子(よみこ)さん(61)夫妻が顔を見合わせて笑う。そんな2人の視線の先にはさく囲いの中でゆったりと動く2頭の馬。
 ◆すれ違い生活
 97年7月、山梨県から大崎町に2頭の馬と共に移住した。それまで勝利さんは甲府市役所、訓子さんも隣町役場に勤務する共働きの公務員だった。
 経済的には不安はなかった。だが、趣味の野球で週末を不在にしがちな勝利さんの後姿を見ながら、訓子さんは砂をかむような日々を過ごしていた。40代前半のころだ。
 ある日、訓子さんは意を決した。寂しさを打ち明け、「共通の趣味をつくりたい」と勝利さんにもちかけた。
 妻からの思いもよらない提案。「ちゃんと働いて家庭を守ってるじゃないか」。勝利さんにはそんな気持ちもあったが、訓子さんの真剣なまなざしに夫婦としての絆(きずな)を結い直そうと決心した。
 ◆馬との出合い
 2人の趣味探しが始まった。テニス、ゴルフ、バドミントン、陶芸、絵画、俳句などあらゆることを試した。だが、「どれも付け焼き刃。しっくりこなかった」(訓子さん)。
 あきらめかけていたある日、何の気なしに訪ねた乗馬クラブ。小さな女の子が馬を怖がりもせず、無心にひづめの泥を落としている。訓子さんは「見てると、馬が女の子をいたわっているような、なんとも言えない優しさを感じたんです」。2人の行く末を決める運命的な出合いだった。
 馬とは無縁だった2人が乗馬クラブに即入会。その後、2頭のオーナーになった。ひまさえあると愛馬に会いに出かけた。それからは馬が飼える暖かい土地探しの国内旅行を重ねた。「鹿児島県内を5年ほどかけて回った。ここはと思う町役場に手紙で問い合わせた。親身になって相談に乗ってもらったのが大崎町だったんです」
 ◆夢が実現
 「愛馬で砂浜を駆け回りたい」。こんな2人の“夢実現”の舞台が大崎町横瀬。志布志湾の砂浜に近い土地を借りて自宅ときゅう舎を建てた。定年後の予定だったが「永住の場所が決まったら、2人ともさっさと辞めてここに来てしまった」。
 今年7月で移住から丸6年。早朝から始まる馬の世話の傍ら、2人はすっかり地域に溶け込んでいる。勝利さんは町内の町おこしグループ員として河川や砂浜の清掃ボランティア。保健士免許を持つ訓子さんは、町の介護保険サービス関連の仕事で忙しい日々だ。
 ◆結び直した絆
 共働き時代にほつれかけた夫婦の絆を馬が結び直してくれた芦沢さん夫妻。人からうらやましがられると言うが、訓子さんは「何も特別なことをしているわけではない。夢に向かって踏み出すか、夢のままで終わらせていいと思うのか。それだけですよ」。訓子さんの言葉に隣の勝利さんが幸せそうにほほ笑んだ。【新開良一】(毎日新聞)

編集 志村一美 : pcを始めて知りましたお会いしたことがありませんが遠い親戚ですが宜しくお願い致します
編集 ずぼらー : 「見てると、馬が女の子をいたわっているような、なんとも言えない優しさを感じたんです」。しみじみと、素敵な言葉。