息子の反抗期
小学校六年生の息子は、最近反抗期を迎えたらしい。私がなにか言うとすぐに反発し
たり、怒ったりする。(年令的にもそろそろ思春期だし、仕方ないか)とも思うのだ
が、それにしても感情の起伏が不安定な気がした。

内容的にはたわいも無いことなのだが、なにか少しでも否定するようなことを言う
と、急に怒鳴ったり、怒って横を向いてふてくされたり、横目で睨み付けたりしてく
る。その様子を見ていると、息子がいわゆる「すぐ切れる子」になってしまったよう
で、私はとても不安だった。最近テレビなどでよく、「すぐ切れる子とか、虐待をし
てしまう母親などは、子どもの頃の愛情の注がれ方が間違っていた事が多い」と耳に
する。今育児をしている母親達に、「あなたは自分の子どもに、正しい愛情の注ぎ方
をしていますか?」と尋ねたら、自信を持って「はい」と答えられる人は多くないか
もしれない。私自身も、そうだと思う。しかし、それほど間違った育て方や愛情の注
ぎ方をして来たつもりもなかった。

息子の態度の急変が、ただの年令的なことからだけ来ているのならいいが、もし他に
原因があるようなら…と、もう一度息子のことや家庭の中のことを見直して見ること
にした。そんな折、私の親友から家に遊びに来ないかと誘いを受けた。偶然その日
は、娘と夫は、娘の習い事で出掛ける予定になっていたので、息子と私の二人で行く
事にした。友人は、息子が保育園の頃から知っているのだが、ここのところ反抗期を
迎えていることは話してなかったので、一応その話をしておく事にした。

友人の家には、息子より2歳下の男の子がいる。息子と同じ習い事をしている、息子
の同期でもあり、二人は前から遊び相手でもあった。他にも数人の同期の子が遊びに
来ていたのだが、息子はその輪に入らずに大人達の所へ来て、たわいない会話に加わ
る事が多かった。時々、呼ばれるとまた他の子達の所に行くのだが、すぐにまた戻っ
て来ていた。それでも、みんなと機嫌よく話をして楽しく過ごして帰って来た。

翌日、その友人から私のところに電話があった。彼女は、息子が保育園の頃からよく
知っている。その彼女の目から見た息子の印象を話してくれた。それは、息子は私に
構ってもらいたがっているのではないか?という事だった。「お姉ちゃんにばっかり
かかりっきりなんじゃないの?」と友人は言った。言われてみれば、思い当たること
がある。娘が中学生になり、部活や勉強で忙しくなった。朝連にいくために、どんな
に朝早い時間に起きる時も、娘はきちんと一人で起きて身支度をして出掛けていき、
夕方までクタクタになるまで練習をして帰ってくる。それでも、夕飯の手伝いをして
くれたり、お風呂の掃除をしてくれたりする。そして、夕飯の後は、宿題などをやる
ために、夜遅くまで机に向っていることも良くあるようになった。部活は大変なのだ
と思うが、「自分で好きでやってるのだから」と頑張っている娘をみていると、つい
世話を焼いてやりたくなる。逆に言えば、息子に対して「お姉ちゃんが勉強している
のだから静かにしなさい」というような言葉を、無意識のうちに言う事が多かったの
だろう。

息子からしてみれば、2歳違いでいつも一緒にワイワイやって来た姉が、中学に入っ
てから、急にしっかりして大人びてしまったことで、自分だけ取り残されたような気
持ちだったかもしれない。そのうえ私には「お姉ちゃんの邪魔をするような事をして
はいけない」とたしなめられるのだから、気分が良いはずがない。私が何気なくして
いた事が、息子のことをないがしろにしているように思えたのかもしれないのだ。

その日私は、帰宅した息子と少し話をしてみた。話しと言っても、息子の学校のこと
や友達と何をして遊んでいるかなど、息子の話しを聞くといった感じだった。息子は
はじめ戸惑っているようだったが、そのうち色々と話し始めた。好きなカードゲーム
の話しや、誰がどのゲームが得意だとか、誰の足が速いとか…。一通り話を聞き終え
た私は、「ねえ、早く中学生になりたい?」と聞いた。すると息子は「お姉ちゃん部
活や勉強大変そうで、遊ぶ時間なさそうだしね。まだ小学生がいいかな?」と言っ
た。その言葉を聞いて「そうだね、まだ小学生がいいかもね。焦らなくてもいいか
ら、ゆっくり大人になればいいよ」と私が言うと。息子は、ちらっとこちらを横目で
見ながら「そうだね」と、一言答えた。息子の本当の反抗期は、もう少し先かもしれ
ない。