プレッシャーというライバルとの闘い
娘は、前回行なわれたレースでは、公式練習でトップと変わらないタイムを出せていたにも係わらず、日頃の練習時間の不足から、自分よりタイムの遅い車をスムーズに抜くことが出来ず、タイムトライアルで目標タイムを出すことが出来無かった。また、その後も、思わぬアクシデントに見まわれ。予選第1ヒートでは、スタート直後の1コーナーでリタイヤ。予選第2ヒートでは、20位⇒10位と健闘を見せるものの、決勝でまたもやアクシデントに遭い。一部トラブルを抱えたままの状態で、14位完走という結果に終わってしまった。

そこで、前回のレースを教訓として。次回レースでは、上位入賞を目指すべくセッティングの見直し等を行なった。その結果、目標(前回のレースの優勝者のタイム)をクリア出来るくらいまでタイムを伸ばすことが出来た。

娘は中学に上がり、カートの練習に行く以外日は、土日も殆ど早朝から日暮れまで部活に時間を取られる生活を送っている。それでも、吹奏楽部でトローンボーンのレギュラーポジションを獲得し、カートでも練習の度にタイム更新をしている。先週の練習でも、自分なりに良い感触を掴んだらしいく、次のレースでの入賞出来るではという期待がかなり出てきたらしい。

今までレース一週間前から、緊張するようなことは余り無かったのだが、今回はかなり様子が違う。なにやら落ち付かないようだ。カートを始めてから丸5年。大人の人とレースをはじめてもうすぐ1年になる。今回ほど、自分でも入賞への確実な手応えを感じでいることは無かったのだろうし、もうそろそろ結果が欲しいのも正直な話しだと思う。それだけに、自分の中でのプレッシャーも大きいのかもしれない。

しかし、彼女は中学1年生。つまり本業は学生である。その学生のお仕事は勉強。
という事で、実は、レース前の2日間に中間テストが実施されるのだ。カートも
頑張って欲しいけど、親としてはこちらも頑張って頂きたいというのが本音。
秋の陽はつるべ落しとは良く言ったものだ。部活を終え、すっかり暗くなってか
ら帰宅した娘は、夕飯を食べ終わると早々に部屋にこもってしまった。少し心配
になって部屋に行ってみると、娘は一生懸命机に向って勉強していた。覗きこん
だ私に気がついた娘は振り向きながら、「なんかレースのことが気になって緊張
してきちゃったから、テスト勉強してるの。適当なところで切り上げてお風呂入
るから、先に入っちゃっていいよ」だって。「分かった」とそれだけ言って、私
は娘の部屋を後にした。なんか違うような気もするが…。ま、いいか?

居間に戻ると、娘の緊張感や頑張りなんてどこ吹く風といった感じで、まるで緊張感のない息子が、テレビのバラエティを見ながらギャハギャハ笑っている。連日カートショップに相談に行ったり、娘のカートのメンテナンスをしていた、メカニック担当の夫は、疲れが出たのか大声で笑っている息子の隣りでうたた寝をはじめていた。

泣いても笑ってもあと数日、私はレース当日娘に事故が起きないことだけを願っ
て、どんな結果が出てもレース後には、「良く頑張ったね!」と娘に一言かけて
やりたいと思いながら、夕飯の片づけをしていた。