2003 07/15 03:47
Category : 日記
7月12日、梅雨空の中、千葉県の市原市の新東京サーキットで、ウイークエンドレースが開催された。
ここのところ我家は、子供達の学校の行事などの関係で、一ヶ月に1回程度しか練習に行く事ができなかった。
しかし、娘は毎回走るたびに、少しづつタイムを更新して、とりあえず目標としてきたタイムにまで、載せて来ていた。
中学に入ってから吹奏楽部に入り、楽器を吹くために、毎日のように腹筋等の筋肉トレーニングをしてきた事が体力アップに繋がった事。そして、なにより部活漬けの日常から週末に解放され、カートに乗る事により、そのストレスを発散する事ができ、かえってリラックスして走りに集中出来るようになった事が、一番の要因のようだった。
今回のレースは、梅雨の真只中ということで、レインコンディションが予想され、またドライでもタイム更新していた事もあり。もともと雨が得意な娘の結果は期待できると予想されていた。
レース当日、早朝4時の段階での天気は雨だった。広域予報では、千葉県地方は午後から雷雨だったのだが、市原市のピンポイント予報では、午後から晴れて気温も高くなると言うものだった。
カートは、走るために最低限の装備しかついていない。しかも、エンジンもムキだしなので、天候や気温や湿度によって、セッッティングも変わってくる。我家としては、このまま雨が上がらずにいって欲しいと願いながら、小雨が降る中、一路サーキットへ向かう。
サーキットへ到着すると、雨は殆ど霧雨に変わっていたが、依然と雲は厚く路面はかなり濡れていた。とりあえず、レインタイヤを着けフルウエット仕様のセッティイングで、ドライ用のスリックタイヤも一緒に車検を受ける。
9時15分 公式練習開始
雨はほぼ上がっていた。予定より15分遅れで始まったために、15分間の予定の公式練習が10分に短縮される事になった。つまり、この10分間で、路面状況を把握し、今日のレースを闘うためのセッティングを決めなくては行けないのだ。レインが得意な娘は、他のカートは50秒台がやっとという状況で、コースイン1周目から、49秒台でトップタイムを出してくる。結局、レインでの半年のブランクは、微塵も感じられない見事な走りで、そのままタイムを更新しつづけ、トップタイムのまま練習を終える。
しかし、他ののクラスの練習が次々と行なわれるにしたがって、路面がどんどん乾いて来てしまった。今回開催された4クラス目の練習が開始される事には、コース上のカートが通る道だけは完全にドライになってしまった。
そのため、すぐ次に、タイムトライアルを控えた各チームのピットは急に騒がしくなった。路面が乾いてしまうとレインタイヤのままでは走行は出来ないために、急遽スリックと呼ばれるドライ用のタイヤに付換えなければならなくなったからだ。
しかし、まだ所々濡れているところがあり、雨が上がったばかりの路面は、きれいに掃除されたのと同じなので、かなり滑る状態で有ることが予想された。タイヤだけをドライ用に換える
のか、それとも他の個所もドライ用のセットにするのか?それぞれのピットでは、メカニックがあちこちで頭をつき合わせて悩んでいる。
我家も、メカ担当の主人が頭を悩ましていた。コースはほぼドライに近くなっているが、肝心のアクセルを開けるポイントで濡れている個所が有るのが認められたことから、家は、ギアを少しだけドライよりに、後はいじらずにスリックタイヤで出すことにする。
10時20分 タイムトライアル開始
さっきまでの天気がうそのように、陽がさし始めたコース上は、あちらこちらでかげろうがユラユラ上がっていた。今回のSクラスのエントリは19台。ドライコンデョションでの娘の目標は、9位までに入賞することだ。滑りやすい路面、ここのところ練習していないハーフウエットの路面とセッティングにもかかわらず、娘は、着実な走りを見せ9位というタイムでフィニッシュする。
11時10分 予選第1ヒート開始
あっという間に、天気は快晴に変わり気温がグングン上昇し、すでに30度に近くなっていた。路面状況は完全なドライである。4クラスが各5分間というタイムトライアルをおこなうわずかな時間で、気温が一気に変わってしまった。しかし、依然として滑りやすい状況であることには変わっていなかった。ただ、普段よりもかなりエンジンの調子が良く、回り過ぎているような状況だった。私とメカ担当の主人と娘は、他のクラスのタイムトライアルの様子を見ながら、わずか15分程しかない時間の中で、ディスカッションを繰り返し、予選に臨むセッティングを決めた。
今回のセッティングも、娘としては、未経験のセッティングである。カートは、ちょっとしたセットの違いでも、かなり動きが変わってしまう。未経験のセットでレースに出るという事は、そのカートの動きを出きるだけ早くドライバーが把握し、アクセルやハンドルなどの全ての操作のタイミングを瞬時に判断して行なう必要が出てくるのだ。しかし、これも娘は見事にこなしてくれた。スタート直後の混戦に巻き込まれることを避けたために、最初少し順位を落としてしまったのだが、その後、果敢にアタックを始めた。つい最近まで、苦手だった3コーナーでは、前のカートのクリッピングのつきが甘く少しインが開いたのを見逃さず、カートをゼブラに乗り上げる形でイン側を取り、前に出て、その後の4コーナーの入り口で真中にカートを進め、後続のカートのアクセルオンのタイミングをはずすような、微妙なタイミングでアクセルを開けるということまでやってのけた。その結果、娘は徐々に順位を回復し、8位でフィニッシュした。
陽射しはどんどん強さを増し、気温も上がり路面温度もグリップも上がって来ていた。そんな中、娘の次のクラスの予選中、トップの3台が1コーナーで絡みあい、もつれた後の2台が接触し、そのうちの一台が、もう一台に乗り上げて中を舞った形で逆さになった形で転倒してしまうという大きな事故が起きてしまった。当然レースは、赤旗中断となった。幸大事には至らずに済んだが、その事故を目の当たりにした娘は、顔を曇らせて少し考えこんでいた。多分、1番混戦しそうな中盤に自分の順位があるので、恐いと思ったのだと思う。しばらくは声を掛けても聞こえない様子で、何かをじっと考え込んでいるようだった。
お昼休みになると、空の雲は全て消え、カンカン照り状態になり、どのドライバーも熱中症になりそうな程、真赤な顔をしていた。私は、娘を日陰で休ませながら、氷水で冷やしたタオルで娘の体を拭いたり、首筋を冷やしたりしてクールダウンさせた。他のチームメイトのドライバーさん達へも、冷やしたお絞りと保温ポットに入れた氷を配って歩いた。しかし、お絞りはあっという間になまぬるくなり、氷も蒸発してしまうかの如くすぐに溶けてしまう。PITの気温でさえすでに30度を越えていた。
13時00分 予選第2ヒート開始
8位スタートの娘が、フォーメーションラップを経て、ローリーングスタートを切ろうとした時のことだった。コントロールライン手前で、なんと娘のすぐ後のカートが、大きく娘のカートに乗り上げた。幸い大事には至らず、どちらのカートもそのままスタートできたのだが、娘はスタートしようとアクセルを踏みこんだ途端に、自分のカートの後ろで大きな音がしたので、自分のカートになにか支障が出たのかと勘違いし、大きく右手を上げてアクセルを踏みこむのが遅れてしまった。これは、後のカートの子が、隊列のスピードをきちんと把握できず、加速ラインの手前で一人だけフライング気味にアクセルを開けてしまったことが原因だった。
一瞬で遅れてしまい、また順位を少し下げてしまった娘だったが、予選第1ヒートの時と同様に、気合をいれて前のカートの隙を果敢に突いた走りを見せる。しかし、すぐ後にいた娘に乗り上げてしまったカートの子は、回りの状況がイマイチ分かっていないらしい。ただアクセルを闇雲に踏んでいるのか? どうも、へんなタイミングで娘のことを後からつついていた。レースが進み、ようやくコース上のカートがバラけて来た頃、猛然と娘がスパートを掛けその子を引き離すことに成功! その後、前のカートと抜きつぬかれつのバトルが始まる。いつもなら、その状態で焦ってしまい、ブレ‐キングミスを起こしてしまったりするのだが、今回の娘は冷静だった。一端相手を前に出し、その後にピタリとついて走り、コーナーでの一瞬インが開いたところで、スット前に出る。まだ、その後一気に引き離すまでのテクニックがないので、若干もつれた形にはなるが、コーナーコーナーで少しづつ確実に相手を離して行く。ある程度距離が開くことで、後のカートを気にしないで良い状態にまると、また前のカートに集中する。そうして、元の順位である8位に戻り、タイム的にも自己ベストにかなり近いタイムを出す形でフィニッシュする。
13時50分 決勝スタート
予選の第1ヒートと第2ヒートに獲得したポイントを加算し、そのポイントによって決勝のグリッドが決定するために、娘は7位からのスタートとなり、娘にとってはドライポジションでは最高位からのスターティンググリッドを獲得した。それだけに、前回、前々回のレースで、中盤の混戦状態の中でスピンに巻きこまれて涙を飲んでいる娘は、今回のレースではスタートに気を遣い、闇雲に前に出て行くのではなく、スタート直後から3コーナーまでちょっと様子を見ながら走るという形を取る事で、ここまで着実に順位を上げて来た。それだけ、今回のレースは、娘は大事に進めて来たともいえた。そして、決勝でも、同じように周りの状況を把握しながら、確実に自分のカートを進めることができる場所を確保しながら、慎重にスタートをし2コーナーの混戦でも、渋滞気味なアウト側を避けてイン側にべったりつく形できれいに曲がってきた。タイムがひっ迫している中盤の集団が3コーナーに入っていく。娘はその先頭付近にいた。3コーナーではいつものラインに乗せることが出来、きれいなラインでスット向きを変えて、出口付近でアクセルを全開にしようとした時アクシデントが娘を襲った。なんと、予選の第2ヒートで娘に乗り上げてきた子のカートが、オーバースピードで3コーナーに進入してきたために上手く曲がりきれず、娘のカートに直角に突っ込んで来たのだ! そのため娘は、真横から追突される形になり、周りのカートを巻きこんでスピンし、エンジンも止まってしまい、一気に順位を落としてしまう。
娘のカートが追突されるところを見ていた主人が、他のどのカートのメカニックよりも早くコースに飛び出し、娘のヘルプに向かった。しかし、そんなアクシデントに遭いながら娘は冷静だった。さっとカートから下りると、後ろ向きになってしまった自分のカートのリアを持ち上げて向きを変え、しかも主人が来た時に、周りのカートが邪魔にならずにすぐにコースイン出きるところまでカートを移動させていたのだ。その結果、そのアクシデントで止まってしまった他のカートで、一人では押しがけが出来ないほかのジュニアのカートよりも早くレースに復帰する事が出来た。
だが、スピンをして止まっている間に、14位まで順位は落ちてしまっていた。しかも、追突されたことでエンジンの調子もイマイチだった。娘は、そのことを察したらしく、自分でキャブを調整しながら、しかも前のカートを追い掛けながら力走する。とうてい追い付けるはずはなかったが、最後まで諦めることなく調整を続けて走りぬいた。その結果、娘のすぐ後まで、TOPのカートが迫ってきていたのだが、娘に追い付くことはなく、娘はどうにか周回遅れになることもなく、14位のままチェッカーを受けた。
今回のレースにおける娘の走りは、今まで最高のものだった。またそれぞれの瞬間での判断力も的確な物だった。だからこそ、今まで叶わなかったドライで常にシングルの順位を維持し、決勝で7位というグリッドからスタートができたのだと思う。多分、今まで5年余りの娘のカート生活の中で、唯一自分の力で表彰台への道が見えたレースだったのだと思う。それだけに、この決勝でのアクシンデトはかなりショックが大きかったらしい。PITに戻って来た娘は、グッと奥歯をかみ締めていたが、流れる涙を抑え切れない様子だった。
私は娘に、カートを始めてから始めて「泣いていいよ」と声を掛けた。情けない話しだが、私にはそのほかに娘にかけてやる言葉が思い浮かばなかった。娘が少し落ち付いてから話しを聞いてみると、3コーナーでのアクシデントに対しては、「やられた」という気持ちはあったが、レースは水物なので仕方がないと自分に言い聞かせたのだという。ただ、その後コースに復帰した時に、前を走っていたのが、自分よりタイムトライアルの結果が良くないカートだったので、「せめてあのカートには追い付きたい!いや、追い付ける!」と思い、集中力を欠かないようにして走ったのだという。端から見ていても、到底追い付くような距離ではなかったのだが、娘は諦めずに追いかけて徐々に距離を詰めてきたところで終わってしまったのだ。
レースが終わった時、元全日本ドライバーで娘の師匠であるうちのショップのお兄さんが、「今日の走りは凄く良かった!悪いところはどこもなかったよ!それだけに悔しいな!」と言いに来てくれた。確かにあのアクシデントは悔やまれるが、やはりレースはなにがあるか分からないので仕方がない。しかし、ただ早く走らせることや、闇雲に突っ込んで行くことなどのテクニックだけを教えるのではなく、きちんと周りの状況を冷静に把握させ、いかに安全にそして早く走ることが必要なのか?を子供達に教える事が一番大事なのだということを、これからレースに出てる子ども達やその子を指導する人達にも認識してもらいたい、と強く感じた。
ここのところ我家は、子供達の学校の行事などの関係で、一ヶ月に1回程度しか練習に行く事ができなかった。
しかし、娘は毎回走るたびに、少しづつタイムを更新して、とりあえず目標としてきたタイムにまで、載せて来ていた。
中学に入ってから吹奏楽部に入り、楽器を吹くために、毎日のように腹筋等の筋肉トレーニングをしてきた事が体力アップに繋がった事。そして、なにより部活漬けの日常から週末に解放され、カートに乗る事により、そのストレスを発散する事ができ、かえってリラックスして走りに集中出来るようになった事が、一番の要因のようだった。
今回のレースは、梅雨の真只中ということで、レインコンディションが予想され、またドライでもタイム更新していた事もあり。もともと雨が得意な娘の結果は期待できると予想されていた。
レース当日、早朝4時の段階での天気は雨だった。広域予報では、千葉県地方は午後から雷雨だったのだが、市原市のピンポイント予報では、午後から晴れて気温も高くなると言うものだった。
カートは、走るために最低限の装備しかついていない。しかも、エンジンもムキだしなので、天候や気温や湿度によって、セッッティングも変わってくる。我家としては、このまま雨が上がらずにいって欲しいと願いながら、小雨が降る中、一路サーキットへ向かう。
サーキットへ到着すると、雨は殆ど霧雨に変わっていたが、依然と雲は厚く路面はかなり濡れていた。とりあえず、レインタイヤを着けフルウエット仕様のセッティイングで、ドライ用のスリックタイヤも一緒に車検を受ける。
9時15分 公式練習開始
雨はほぼ上がっていた。予定より15分遅れで始まったために、15分間の予定の公式練習が10分に短縮される事になった。つまり、この10分間で、路面状況を把握し、今日のレースを闘うためのセッティングを決めなくては行けないのだ。レインが得意な娘は、他のカートは50秒台がやっとという状況で、コースイン1周目から、49秒台でトップタイムを出してくる。結局、レインでの半年のブランクは、微塵も感じられない見事な走りで、そのままタイムを更新しつづけ、トップタイムのまま練習を終える。
しかし、他ののクラスの練習が次々と行なわれるにしたがって、路面がどんどん乾いて来てしまった。今回開催された4クラス目の練習が開始される事には、コース上のカートが通る道だけは完全にドライになってしまった。
そのため、すぐ次に、タイムトライアルを控えた各チームのピットは急に騒がしくなった。路面が乾いてしまうとレインタイヤのままでは走行は出来ないために、急遽スリックと呼ばれるドライ用のタイヤに付換えなければならなくなったからだ。
しかし、まだ所々濡れているところがあり、雨が上がったばかりの路面は、きれいに掃除されたのと同じなので、かなり滑る状態で有ることが予想された。タイヤだけをドライ用に換える
のか、それとも他の個所もドライ用のセットにするのか?それぞれのピットでは、メカニックがあちこちで頭をつき合わせて悩んでいる。
我家も、メカ担当の主人が頭を悩ましていた。コースはほぼドライに近くなっているが、肝心のアクセルを開けるポイントで濡れている個所が有るのが認められたことから、家は、ギアを少しだけドライよりに、後はいじらずにスリックタイヤで出すことにする。
10時20分 タイムトライアル開始
さっきまでの天気がうそのように、陽がさし始めたコース上は、あちらこちらでかげろうがユラユラ上がっていた。今回のSクラスのエントリは19台。ドライコンデョションでの娘の目標は、9位までに入賞することだ。滑りやすい路面、ここのところ練習していないハーフウエットの路面とセッティングにもかかわらず、娘は、着実な走りを見せ9位というタイムでフィニッシュする。
11時10分 予選第1ヒート開始
あっという間に、天気は快晴に変わり気温がグングン上昇し、すでに30度に近くなっていた。路面状況は完全なドライである。4クラスが各5分間というタイムトライアルをおこなうわずかな時間で、気温が一気に変わってしまった。しかし、依然として滑りやすい状況であることには変わっていなかった。ただ、普段よりもかなりエンジンの調子が良く、回り過ぎているような状況だった。私とメカ担当の主人と娘は、他のクラスのタイムトライアルの様子を見ながら、わずか15分程しかない時間の中で、ディスカッションを繰り返し、予選に臨むセッティングを決めた。
今回のセッティングも、娘としては、未経験のセッティングである。カートは、ちょっとしたセットの違いでも、かなり動きが変わってしまう。未経験のセットでレースに出るという事は、そのカートの動きを出きるだけ早くドライバーが把握し、アクセルやハンドルなどの全ての操作のタイミングを瞬時に判断して行なう必要が出てくるのだ。しかし、これも娘は見事にこなしてくれた。スタート直後の混戦に巻き込まれることを避けたために、最初少し順位を落としてしまったのだが、その後、果敢にアタックを始めた。つい最近まで、苦手だった3コーナーでは、前のカートのクリッピングのつきが甘く少しインが開いたのを見逃さず、カートをゼブラに乗り上げる形でイン側を取り、前に出て、その後の4コーナーの入り口で真中にカートを進め、後続のカートのアクセルオンのタイミングをはずすような、微妙なタイミングでアクセルを開けるということまでやってのけた。その結果、娘は徐々に順位を回復し、8位でフィニッシュした。
陽射しはどんどん強さを増し、気温も上がり路面温度もグリップも上がって来ていた。そんな中、娘の次のクラスの予選中、トップの3台が1コーナーで絡みあい、もつれた後の2台が接触し、そのうちの一台が、もう一台に乗り上げて中を舞った形で逆さになった形で転倒してしまうという大きな事故が起きてしまった。当然レースは、赤旗中断となった。幸大事には至らずに済んだが、その事故を目の当たりにした娘は、顔を曇らせて少し考えこんでいた。多分、1番混戦しそうな中盤に自分の順位があるので、恐いと思ったのだと思う。しばらくは声を掛けても聞こえない様子で、何かをじっと考え込んでいるようだった。
お昼休みになると、空の雲は全て消え、カンカン照り状態になり、どのドライバーも熱中症になりそうな程、真赤な顔をしていた。私は、娘を日陰で休ませながら、氷水で冷やしたタオルで娘の体を拭いたり、首筋を冷やしたりしてクールダウンさせた。他のチームメイトのドライバーさん達へも、冷やしたお絞りと保温ポットに入れた氷を配って歩いた。しかし、お絞りはあっという間になまぬるくなり、氷も蒸発してしまうかの如くすぐに溶けてしまう。PITの気温でさえすでに30度を越えていた。
13時00分 予選第2ヒート開始
8位スタートの娘が、フォーメーションラップを経て、ローリーングスタートを切ろうとした時のことだった。コントロールライン手前で、なんと娘のすぐ後のカートが、大きく娘のカートに乗り上げた。幸い大事には至らず、どちらのカートもそのままスタートできたのだが、娘はスタートしようとアクセルを踏みこんだ途端に、自分のカートの後ろで大きな音がしたので、自分のカートになにか支障が出たのかと勘違いし、大きく右手を上げてアクセルを踏みこむのが遅れてしまった。これは、後のカートの子が、隊列のスピードをきちんと把握できず、加速ラインの手前で一人だけフライング気味にアクセルを開けてしまったことが原因だった。
一瞬で遅れてしまい、また順位を少し下げてしまった娘だったが、予選第1ヒートの時と同様に、気合をいれて前のカートの隙を果敢に突いた走りを見せる。しかし、すぐ後にいた娘に乗り上げてしまったカートの子は、回りの状況がイマイチ分かっていないらしい。ただアクセルを闇雲に踏んでいるのか? どうも、へんなタイミングで娘のことを後からつついていた。レースが進み、ようやくコース上のカートがバラけて来た頃、猛然と娘がスパートを掛けその子を引き離すことに成功! その後、前のカートと抜きつぬかれつのバトルが始まる。いつもなら、その状態で焦ってしまい、ブレ‐キングミスを起こしてしまったりするのだが、今回の娘は冷静だった。一端相手を前に出し、その後にピタリとついて走り、コーナーでの一瞬インが開いたところで、スット前に出る。まだ、その後一気に引き離すまでのテクニックがないので、若干もつれた形にはなるが、コーナーコーナーで少しづつ確実に相手を離して行く。ある程度距離が開くことで、後のカートを気にしないで良い状態にまると、また前のカートに集中する。そうして、元の順位である8位に戻り、タイム的にも自己ベストにかなり近いタイムを出す形でフィニッシュする。
13時50分 決勝スタート
予選の第1ヒートと第2ヒートに獲得したポイントを加算し、そのポイントによって決勝のグリッドが決定するために、娘は7位からのスタートとなり、娘にとってはドライポジションでは最高位からのスターティンググリッドを獲得した。それだけに、前回、前々回のレースで、中盤の混戦状態の中でスピンに巻きこまれて涙を飲んでいる娘は、今回のレースではスタートに気を遣い、闇雲に前に出て行くのではなく、スタート直後から3コーナーまでちょっと様子を見ながら走るという形を取る事で、ここまで着実に順位を上げて来た。それだけ、今回のレースは、娘は大事に進めて来たともいえた。そして、決勝でも、同じように周りの状況を把握しながら、確実に自分のカートを進めることができる場所を確保しながら、慎重にスタートをし2コーナーの混戦でも、渋滞気味なアウト側を避けてイン側にべったりつく形できれいに曲がってきた。タイムがひっ迫している中盤の集団が3コーナーに入っていく。娘はその先頭付近にいた。3コーナーではいつものラインに乗せることが出来、きれいなラインでスット向きを変えて、出口付近でアクセルを全開にしようとした時アクシデントが娘を襲った。なんと、予選の第2ヒートで娘に乗り上げてきた子のカートが、オーバースピードで3コーナーに進入してきたために上手く曲がりきれず、娘のカートに直角に突っ込んで来たのだ! そのため娘は、真横から追突される形になり、周りのカートを巻きこんでスピンし、エンジンも止まってしまい、一気に順位を落としてしまう。
娘のカートが追突されるところを見ていた主人が、他のどのカートのメカニックよりも早くコースに飛び出し、娘のヘルプに向かった。しかし、そんなアクシデントに遭いながら娘は冷静だった。さっとカートから下りると、後ろ向きになってしまった自分のカートのリアを持ち上げて向きを変え、しかも主人が来た時に、周りのカートが邪魔にならずにすぐにコースイン出きるところまでカートを移動させていたのだ。その結果、そのアクシデントで止まってしまった他のカートで、一人では押しがけが出来ないほかのジュニアのカートよりも早くレースに復帰する事が出来た。
だが、スピンをして止まっている間に、14位まで順位は落ちてしまっていた。しかも、追突されたことでエンジンの調子もイマイチだった。娘は、そのことを察したらしく、自分でキャブを調整しながら、しかも前のカートを追い掛けながら力走する。とうてい追い付けるはずはなかったが、最後まで諦めることなく調整を続けて走りぬいた。その結果、娘のすぐ後まで、TOPのカートが迫ってきていたのだが、娘に追い付くことはなく、娘はどうにか周回遅れになることもなく、14位のままチェッカーを受けた。
今回のレースにおける娘の走りは、今まで最高のものだった。またそれぞれの瞬間での判断力も的確な物だった。だからこそ、今まで叶わなかったドライで常にシングルの順位を維持し、決勝で7位というグリッドからスタートができたのだと思う。多分、今まで5年余りの娘のカート生活の中で、唯一自分の力で表彰台への道が見えたレースだったのだと思う。それだけに、この決勝でのアクシンデトはかなりショックが大きかったらしい。PITに戻って来た娘は、グッと奥歯をかみ締めていたが、流れる涙を抑え切れない様子だった。
私は娘に、カートを始めてから始めて「泣いていいよ」と声を掛けた。情けない話しだが、私にはそのほかに娘にかけてやる言葉が思い浮かばなかった。娘が少し落ち付いてから話しを聞いてみると、3コーナーでのアクシデントに対しては、「やられた」という気持ちはあったが、レースは水物なので仕方がないと自分に言い聞かせたのだという。ただ、その後コースに復帰した時に、前を走っていたのが、自分よりタイムトライアルの結果が良くないカートだったので、「せめてあのカートには追い付きたい!いや、追い付ける!」と思い、集中力を欠かないようにして走ったのだという。端から見ていても、到底追い付くような距離ではなかったのだが、娘は諦めずに追いかけて徐々に距離を詰めてきたところで終わってしまったのだ。
レースが終わった時、元全日本ドライバーで娘の師匠であるうちのショップのお兄さんが、「今日の走りは凄く良かった!悪いところはどこもなかったよ!それだけに悔しいな!」と言いに来てくれた。確かにあのアクシデントは悔やまれるが、やはりレースはなにがあるか分からないので仕方がない。しかし、ただ早く走らせることや、闇雲に突っ込んで行くことなどのテクニックだけを教えるのではなく、きちんと周りの状況を冷静に把握させ、いかに安全にそして早く走ることが必要なのか?を子供達に教える事が一番大事なのだということを、これからレースに出てる子ども達やその子を指導する人達にも認識してもらいたい、と強く感じた。