息子、修行(?)に行く
昨日は、新東京サーキットに練習に行ってきた。

もうすぐ東日本ジュニアの最終戦を控えた新東京は、かなりの数のジュニアカーターが来ていた。
新東京では、12歳以下は初心者やレンタルカートと一緒の時間だけしか走ることができず、お昼休みの一時間半と、2時半からの30分しか走ることができない。そこで、一般走行の時間に娘を走らせ、ジュニア初心者時間に息子を走らせることにした。

すると、いつもはお昼の一時間半だけしか練習をしたがらない息子が、2時半からの練習も走りたいと言い出した。

しかし、ここのところパパの体調があまり良くないので、レースに出る予定の無い息子はお昼の時間だけの練習で我慢して欲しいとパパに言われ、取りあえずお昼の時間だけ練習することにした。

娘の方は、ふだん使っているものとは、全く違うタイヤとエンジンでのレースなので、前回の練習では、タイヤの空気圧や、キャブの調整が上手く行かず、なかなか思うように走れなかった。

今回、ようやくめぼしがついたせいか、少しずつタイムを上げて来た。しかし、周りの子達は、その辺の調整はもうとっくに終わっている。しかも今回のレースは最終戦なので、みんなかなり気合も入っていて、トップの子のタイムは、娘より一秒も早いのだ。

娘は、言い様のない焦りを感じながら走っているのが良く分かる。「始めて使ったタイヤとエンジンなんだしさ、やっと調整がついたんだからさ、焦らないでやろうよ」と声を掛けると。
「そんなにのんびりしてちゃダメだよ。レース目の前なんだよ?間に合わないよ」と涙目で私に食ってかかってくる始末だった。

そんな中、息子は相変わらず、かなりの台数のレンタルとコマー(10歳くらいまでの子が乗る小さなカート)に囲まれて、悪戦苦闘しながら走っていた。

息子も、ようやく大人用のカートに慣れてきて、少し手応えを感じ始めてきたらしい。
しかし、普段の数倍の台数がひしめき合う中を縫うようにして走っていて、なかなか自分のラインで走ることができない。

結局、前回の練習で出したタイムには一歩及ばず、本人は不本意なまま練習が終わってしまった。

午後、娘は少しづつタイムは更新するのだが、まだ0.3秒ほど目標とするタイムに届かない。

決してトップを狙っているわけではないのだが、自分で出したいと思うタイムが出ない自分に、苛立ちながら焦りながらも、ただ黙々と走っていた。

エンジンのクラス別に順番に走っていたので、あと残り2回というところでアクシデントが起こってしまった。

娘のカートを押しがけしようとした夫が、かるいぎっくり腰をやってしまったのだ。取り敢えず、ショップのお兄さん達に頼んで娘は走ることができたが、翌日のジュニア占有走行日の練習は無理になってしまった。

すると、なんとそれを一番残念がったのは、息子だった。
普段は練習が大嫌いな息子なのだが、ジュニア占有走行日は、朝から一日走ることが出きるので、楽しみにしていたのだと言う。

しかし、さすがの息子も薬を飲んで痛みをこらえながらやっと片づけをしているパパに向って「明日も走りに来たい」とは言えなかったのだ。

帰宅途中の車の中でいきなり「明日オレショップのお兄さんの手伝いをしにサーキットに行く」と言い出した。

少し前の事だが、同い年のチームメイトが一人だけでショップのお兄さんに同行して、大人の人達のレースの手伝いをしたことがあったので、自分もやれると言い出したのだ。

しかし、明日はジュニア占有日。メカなどはそれぞれのお宅のお父さんが担当するので、ショップの手伝いは殆ど必要ない。行っても邪魔になるだけだから、と何度も息子を説得したのだが、「お願いだから」と息子はひたすら頼みこんでくるばかりだった。

ショップのお兄さんの許可をもらい、一緒に夕飯を食べたチームメイトが明日の朝うちによって連れて行ってくれるという事で、息子の願いは聞き入れられた。

そして今朝、息子はきちんと自分で目を覚まし、お手伝いをする為の軍手なども自分で用意し、準備万端で出掛けて行った。

案の定、今日は殆ど手伝うような事も無く、息子はかなり暇な一日を送ったようだった。
息子のことをピックアップしてくれたチームメイトのお母さんの話だと、暇でつまらないかな?と思ったけど、自分からそれぞれの子の練習の順番を気にして呼びに行ったり。お父さん達がカートをいじるのを横で覗きこんだりしていたらという。「暇でつまらないんじゃない?」と聞いても「そんな事無いよ」と言って笑うだけだったという。

ただ、皆が走っているのを見ながら「オレも走りたい。走りたい」とずっと言っていたらしい。

息子は、帰宅するなり「今度は走りに行くよね?」と言って来た。そして、覚えたてのカートの部品について話してくれた。

娘が大人のレースに出るようになるまでは、我家はあまりショップの人達と一緒にサーキットに行った事が無かったのだ。だが、この一年余りのは、大人の人に混ざって娘が練習するために、ピットでお客さんのカートのメカニックをするショップのお兄さん達のことを見てきた。彼らは、元全日本の選手だったり、FJという小さなフォーミュラカーでレースをしていた経験を持つ人ばかりなので、みなドライビングテクニックもかなりのものだ。そんなお兄さん達の姿を、息子なりにカッコイイと思うようになり、自分なりにカートや走ることに対して興味や意欲が出てきたらしい。

息子は、「今度はもっとカートのことや工具のことを覚えて、また手伝いをさせてもらいに行くんだ!」と、目をキラキラさせながら私に言った。

11歳の息子が、なんだか少し大人になって帰って来たような、そんな気持ちになる出来事だった。