ある絵本を読んだ。『そらまめかぞくのピクニック』。
主人公は、12年で生涯を閉じた実在の少女が自分の足形から生み出したキャラクターだ。闘病中、緑色の絵の具を足裏に塗り、画用紙にあてて描いた。
作者は昨年亡くなった広島県福山市の森上翔華さん。5歳の時、左足にがんの一種である横紋筋肉腫が見つかった。絵は亡くなる半年ほど前から、病室で描き始めた。「そらまめさん」と兄弟がお弁当を広げたり遊んだりする物語だ。
父の弘典さんによると、ぶらんこや滑り台が大好きで、「公園行こ行こ」とせがむ活発な子だった。「病院でも廊下をかけ回り、他の患者さんにも笑顔を振りまく人気者でした」。そんな姿に親である自分が励まされたと話す。
入退院を繰り返したが、6年生の運動会では、本番当日に練習して組み体操に出場。2泊3日の関西地方への修学旅行にも参加した。「小学校に送ると、『翔ちゃーん』と友だちが集まって手をとってくれた」と母の好江さんは振り返る。
中学入学を控えた昨年1月、容体が悪化する。激痛に耐えながら「まだ死にたくない」とベッドの柵を握った。「友だちと出たい」と訴えていた卒業式には、同級生が遺影をもって参加。翔華さんの名前が呼ばれると、6年生全員が「はい!」と声をそろえてくれた。
絵本が出版されたのは昨年末。ページを繰ると、翔華さんの足形が躍動する。12年間の人生の足跡そのもののような絵本は、涙なしでは読むことができない。

 天声人語より