今年の旧正月「春節」をめぐる話題は新型肺炎一色で、祝賀ムードは影を潜める。
この旧正月、中国のみならずアジア各国で祝う習慣がいまもある。韓国はソルラル、ベトナムではテトと呼ぶ。
日本ではすっかり廃れ、わずかな地域に細々とその習慣が残る。そのひとつ、鹿児島県の奄美大島にある笠利町節田集落では「節田マンカイ」を脈々と受け継ぐ。今年も、元日にあたる25日に催された。
「マンカイには神様や福を『招く』という意味が込められています」と朝邦夫区長は話す。男女が一列に向かい合って座る。太鼓と三味線が鳴り、男女が歌を交わし、波のように両手を左右にゆらす。
「正月ティバ正月 ハレーフェイー」「ヤーハレ 祝い 祝い美らさ」。曲調が速まって熱気を帯び、最後は立ち上がって舞う。続けて、アザミと豚骨を煮込んだ正月料理アザミヤセを味わう。「昔はサトウキビの収穫の合間の息抜き。男女が出合う貴重な機会でもありました」と朝さん。
国内で旧暦のさまざまな行事が廃れた原因をたどれば、明治5年の改暦に至る。戦前まで奄美各地にあった旧正月の祭事は、新暦が浸透するにつれ姿を消した。節田マンカイも一時期は存続が危ぶまれたが、住民向けの講習会を重ねて伝承してきた。その努力には頭が下がる。
すっかり絶滅したかと思い込んでいた旧暦が、この南の島にはたしかに息づく。時空を旅して異国を歩くような感覚を楽しみつつ、由緒ある踊りが何世代も残るよう祈った。

 天声人語より