もの憂げな瞳、青白い肌、しゃくれたあご。
17世紀のスペイン国王フェリペ4世の顔貌は、失礼を承知で申し上げれば、全体に締まりを欠く。東京・上野の国立西洋美術館で開催中の「ハプスブルク展」ど、肖像画に見入った。
「根は善良な人ですが、もともと無気力で怠け者。国王本来の仕事に身が入らず、スペインの凋落を加速させました」。そう話すのは南山大名誉教授の佐竹謙一さん。評伝『浮気な国王フェリペ四世の宮廷生活』の著者である。
国政は寵臣に丸投げ。時間の多くを感激や狩猟、酒宴に費やした。なかでも情熱を注いだのが、たわむれの恋の数々。独身既婚を問わず、侍女や修道女にまで求愛した。王の抱一゛りは醜聞として大衆に知れ渡り、詩人や劇作家たちの創作の源にもなった。
大航海時代に植民地を広げ、「太陽の沈まぬ国」として繁栄を謳歌したのは祖父フェリペ2世のころ。4世の治世下では版図が縮小。財政は傾き、人口も減少した。「自国の退潮はもう国民の目にも明らかでした」と佐竹さん。
「余に天罰を」。彼が晩年に書いた私信には苦悩の色が濃い。反乱や飢餓、疫病が続くのは、自分の意思が弱いせいだと自責の念にかられた。己の限界を嘆きはしたものの、国運の衰退はもはや止めるべくもなかった。
思いはふいに現代の日本へ飛ぶ。国の借金が増えに増え、人口の減少に歯止めがきかず、将来への不安が消えないまま、私たちはどんな為政者を必要としているのだろう。

 天声人語より