このところ老眼が進み、細かな文字が読めなくなった来た。老眼鏡をかけても、数字の3と8、「は」と「ほ」が区別できない。
「珠玉」を「埼玉」と読み違えて赤面したこともあった。
私と似た悩みを抱える人たちにやさしい文字があると聞き、開発者の小田浩一・東京女子大教授を訪ねた。共同印刷から依頼され、びっしりと並んでも読みやすい字体を4年前に完成させた。
実験では、文字の大小や間隔、配色などを変えて、若者や高齢者延べ200人に詠み比べてもらった。「時計が時をきざむ音が/かちかちと良くひびく/しずかな部屋なのです」。そんな例文をなんび、何千と用意し、読む速さ、誤読の多寡を調べた。
例文がどれも無味乾燥なのは、随想や詩歌だと読み手の感情が揺れ、読む速度に影響してしまうから。「被験者のみなさんには退屈で過酷な実験でした」。できあがった書体は」小春良読体」と名付けられた。銀行の利用明細や薬の効能書きなどに採用されているそうだ。
印刷された文章を読んでみる。おなじみの明朝体やゴシック体に比べると、漢字が縦に長い。濁点と半濁点が大ぶりで、ひらがなには独特の丸みがある。字間にゆとりがあって、たしかに読みやすい。
悪くなる一方の目に困り、眉間にしわを寄せて文字と格闘してきた当方だが、これなら苦手の3と8、「は」と「ほ」も混同せずにすみそうだ。目にやさしい漢字もや数字、仮名やアルファベットの列に少し安堵した。

 天声人語より