梅をつける季節である。かつては梅売りがやつてきて、「つけ梅! つけ梅!」と声をあげるのが初夏の風物詩だった。
それがいつのころからか聞かれなくなり-----と、40年余り前にかかれた『季節のうた』にある。
著者の主婦、佐藤雅子さんは売り声を合図に梅干しをつけ始めた時分を、懐かしそうに書いている。それがないと、うつかり時期を逃がしそうになるのだと。風情のある声は遠い昔、いまはスーパーの売り場に並ぶのが会津だろうか。
梅干しとはいかないまでも、梅酒をつくるのが恒例となっている方は多いだろう。我が家でも一袋買い、まずはつまようじでヘタを取り始めた。ぽこつと外れると青い実がつるんとした顔になるようで、ちょっと楽しい。
青梅は夏の季語でもある。小さく丸い実は、どこか幼子を思わせるかわいらしさがある。〈梅の実の子と露の子と生れ合う〉中川宋淵。梅雨の時期の雨のつぶと、梅の実が、きょうだいであるかのような絵が浮かぶ。
焼酎と氷砂糖にひたされた梅は、身軽に浮かんでいたかとおもうと、いつの間にか底の方にいる。気ままに動き回っているようにも思えてくる。びんの中の梅を写真に収め、インスタ映えを競うという楽しみ方も最近はあるそうだ。
1年を通してさまざまな野菜や果物が売り場に並び、季節感を失いそうになる。梅酒も、涼やかな飲み口ゆえに夏の季語なのだと初めて室田。<青より出でて琥珀の梅酒かな>福井まさ子。氷を浮かべる日が楽しみである。

 天声人語より