犬の飼い主が散歩中、路上にフンを残して立ち去る現場を目撃することはない。
それなのに日々、うんざりするほどフンを見かけるのはなぜなのか。そんな長年の疑問が、京都府宇治市役所を尋ねてようやく解けた。
「飼い主の圧倒的多数は良識ある方。フンを放置してまったく平気でいられる人はいません」と宇治市環境企画課の柴田浩久さんは言う。低予算で効果的なフン害対策を編み出した人である。
やり方はいたって簡単。落とし物を見つけたら、あえて回収せず、黄色いチョークで路面に印をつける。丸でも矢印でもよい。発見した日時を書き添える。かつて駐車違反の車に警官がチョークで印をつけるのを見て着想したそうだ。
「イエローチョーク作戦」。半年もしないうちに路上のフンは激減。苦情もほぼなくなった。それまで、「始末は飼い主の責任」といった看板を立てるのに年9万円を費やした。いまはチョーク代の5千円で済むようになったという。
「人目のないところではついつい気が緩むもの」と柴田さん。放置が目立つのは家や店の少ない一角。深夜と早朝に集中していた。「だれかに見られている。そんな心理が働いて、不始末が激減したようです」。あわせて缶やゴミ、吸い殻の投げ捨てもなくなったという。
罰金や警告を突きつけたわけでもない。たった1本のチョークの線が、かくも劇的な効果を人々の心理に及ぼすとは。フンの見当たらない宇治の街を歩きながら、人間心理の妙を思った。

 天声人語より