「絶無使用 日本福島米及食材」。5年ほど前、香港の和食店でそう大書したポスターを見かけた。
きつすぎる文面にため息がこぼれた。
先日、久方ぶりに香港を訪れた。意外だったのは、福島産の日本酒が人気の的だったこと。「寫楽」「十口万」。会津の銘酒を香港の人々が楽しげに酌み交わしているではないか。意識は変わりつつあるらしい。
福島県の担当課に聞くと、震災直後は54の国・地域で県産品の輸入に規制がかけられたが、いまは総数24に減った。その一つが香港だ。香港政府は昨夏、群馬や茨城など福島近隣4県の規制を解いた。あとは福島産の野菜や果物、乳製品を残すばかりとなった。
福島県の内堀雅雄知事は先月下旬、香港を訪れている。震災前までは前県の輸出農産物の8割が向かったという大得意先である。知事は安全性を説いて回ったが、輸入再開の確約を得るには至らなかった。「福島に対する意識、懸念や不安、心配が根強かった」。現地を歩いての偽らざる実感だろう。
短い間なか゜ら記者として香港に駐在して感じたのは、日本の食材食品に寄せる人々の信頼の高さである。「価格は高くても安心」と幾度も言われた。事故後にいつまでも風評が収まらないのは、そうした
長年の評価の裏返しなのかもしれない。
国外に限らず、風評との戦いではゴールが見えにくくなる。それでも福島のお酒を満喫する香港の人々には励まされる。今回の滞在中、「絶無」のポスターを見ることは絶えてなかった。

 天声人語より