何年か前、京都の清水寺で、観光客の自撮りにハラハラしことがある。
「清水の舞台」に立った自分を写そうとするあまり、柵に足をかけ、身を乗り出し、自撮り棒を高く伸ばす。危ないことのうえない。
古都に限らず、当節は観光地のあちこちで同じ光景に出くわす。いかにも楽しげな様子で、説教するのはやや気が引ける。
自撮りを意味する新語「セルフィー」が英国で「今年の言葉に選ばれたのは、2013年のこと。撮影中の事故も急増している。絶景の山頂から転落したり、列車にはねられたり。米国では2年前、「自撮り中の死者が、サメに襲われて亡くなる人を上回った」と騒ぎになった。
「多くは10代か20代。SNSで目立ちたいと撮影熱が高じた結果です」。インドの医学研究者アガム・バンサルさんは、英語で報道された自撮り事故の死者数を調べ、米医学誌に発表した。6年間で259人が死亡していた。
規制に乗り出した国もある。ロシアでは、政府が「100万回の『いいね』より大切なあなたの命」というスローガンを掲げ、無謀な撮影をしないよう訴える。インドは、危険度の高い観光地16カ所を「自撮り禁止地区」に指定し、警察の巡回を増やした。
自撮りはテクノロジーをいかした人類共通の楽しみであり、事故はその過熱がもたらした悲劇だろう。断崖絶壁に立ったり、列車に近すぎたりしたら、スマホが感知してシャツターを封じる。そんなテクノロジーが世に出るのはいつだろうか。

 天声人語より