舞台に立つこと30余年。めったなことでは動じない俳優、谷英実さんが緊張で押しつぶされそうになった。
昨夏、摩文仁の丘での舞台。「沖縄戦を知らない私が沖縄で演じる。重圧です」。
演じたのは朗読劇「顔」。13歳で沖縄戦を体験した実在の女性がモデルだ。米軍が迫る首里から南に逃げる最中に被弾。顔に傷を負った。谷さんは8年前に当人から体験を聞き、脚本を書いた。
<顔の真ん中にザクロのような穴が開いていて-----生きていてよかったんだか---->。関東で生まれ育った谷さんが沖縄の抑揚で語る。客席の視線に不安を感じ続けた50分間。上演後のお客さんの涙に全身の力がぬけた。
「本土の人間が沖縄戦を語るのはおこがましい。でも私も一緒に悼みたいと、沖縄の方々に伝えたいのです」。初めて「顔」を沖縄で演じたのは3年前。入場無料でカンパを集めたが、往復の航空券代も賄えなかった。「お前に何が分かる」と非難されたこともある。それでも公演を重ねた。
20万もの命が失われた沖縄戦。その惨禍を語り継ぐ役目を沖縄に押しつけてよいのか。「おこがましい。」と言って避けるのは、基地集中の現状を見て見ぬふりする冷淡さと表裏一体ではないか。谷さんと話して、強く感じた。
23日は「慰霊の日」だ。激戦地の摩文仁をはじめ、沖縄の各地で催しがある。翻って本土はどうか。これまで接点がなかった人々もいま住む街で沖縄の払った犠牲をすすんで学び、語り、悼む。そんな日としたい。

 天声人語より