サッカーW杯開幕の話題をさらったのはスペインの監督交代劇だった。
就任以来20戦無敗のロペテギ前監督が初戦を2日後に控えて解任された。協会には知らせぬまま、国内のくらぶ、レアル・マドリードの来季監督を引き受けたせいだ。
ロペテギ前監督の決断も理解はできる。一部とはいえ、欧州では国代表よりクラブが上という逆転現象が起きているからだ。
レアルは豊富な資金力を持つ欧州有数のクラブである。W杯初戦で3得点をあげたロナルドら世界中からまばゆいばかりの才能を集め、「銀河系」の異名を持つ。そこでの采配はけた違いの報酬と合わせて監督としての頂点といってもいい。
興味深いのは、そんなクラブを前任のジダン氏が自らの意思で辞めたことだ。フランスをW杯優勝に導いた名選手は、クラブの監督に就任すると欧州チャンピオンリーグで3連覇を達成。その直後に「チームが勝ち続けるには変化が必要だ」と身を引いた。
「監督の賞味期限は3年」。日本代表や内外のクラブを率いた岡田武史さんからも、そんな解説を聞いたことがある。「どんなに練習や戦術を工夫しても、マンネリは避けられない。中心選手を代えるか、監督が代わるしかない」と。
選手の生殺与奪を預かる監督は、自らの退路を断つ覚悟でピッチに立つしかないという意味か。監督の仕事には底知れぬ喜びと孤独ががある。深夜早朝のW杯中継では、ベンチにたたずむ監督にも目をこらしたくなる。

 天声人語より