和菓子店のショーウインドーに紫陽花や枇杷の実、蛍が並ぶ季節である。
口に運ばずとも、見ているだけで涼やかな気分になれる。
和菓子の老舗「虎屋」で歴史資料の研究にあたる「虎屋文庫」の所加奈代さんによると、和菓子文化が一気に花開いたのは17世紀末、元禄のころという。月や桜、蝶に鶉さえ菓子で表現するという風雅な文化が京都から広まった。
近代に入ると、菓子を彩る季節感はさらに増す。いまから100年前の大正7年に作られた商品録「菓子見本帳」には、扇や田植え時の雨をモチーフにした菓子が並ぶ。
見た目は涼しげでも、今も昔も菓子工房は熱気に満ちている。この時期におなじみの「葛饅頭」は高温の葛生地を素手でつかみ、すばやくあん玉をくるむ。「紫陽花」は、降りかかる雨のしずくまで表現され、食べるのをためらうほど美しい。どれも職人たちの鍛錬と精緻な手さばきのたまものである。
さて気になる梅雨前線の動きだが、きのうは近畿から関東甲信あたりまでを覆い始めたようである。今年の梅雨入りはどこもせわしなく、昨年より20日以上早かった地域もある。
いつまでも晴れぬ空はむろん恨めしい。それでもこの季節ならではの過ごし方はあるはずだ。たとえば、夏の季語に「雨安居」がある。雨期のインドで僧侶たちが安全な寺院にこもり、修行に専念したことに由来する。雨音に耳を傾けつつ、丁寧に作られた和菓子を居間でいただく。しばし蒸し暑さを忘れる。

 天声人語より