「活弁」なる職業をご存じだろうか。無声映画の画面に合わせてセリフをのせる弁士のことだ。
昭和初期には全国で7千人を超えたが、減りに減っていまは十数人に。「絶滅」が危ぶまれ職種である。
先月、愛知県碧南市の催しで初めて実演を見た。米映画「チャプリンの放浪者」と小津安二郎の「生れてはみたけれど」の2本立て。幼児の笑い声から悪役の切り口上まで巧みに声色を変え、老若男女を演じ分ける。
序盤こそ意識は弁士へ向かうが、ほどなく画面に吸い込まれる。セリフを現代風に訳し、客席の反応を見ながらアドリブで背景解説も加えてくれるからわかりやすい。おかげで2時間余り、チャプリンで笑い、小津でホロリとさせられた。
この日の弁士、笹木亜希子さんはアナウンサー出身だ。当代の第一人者として知られる澤登翠さんの芸に魅了され、活弁に転じて18年。各地で演じ、手持ちの演目は180作を超える。
「いまは70代以上でも実演を見るのは初めてと言う方がほとんど。どこの街でも新鮮だと喜んでもらえます」。たとえ映画史を飾る名作であっても、演じる弁士がいなくなれば、やがて忘れ去られる。上演の場を増やし、ファンを開拓したいと話す。
鞍馬天狗、国定忠治、清水次郎長、鼠小僧次郎吉---。無声映画でおなじみのヒーローたちも、このごろ若者たちにはしばしば話が通じない。活弁ならではの「語り芸」で現代によみがえることを願う。

 天声人語より