重要政策論の不在---その一
昨年の今頃、米国のトランプ大統領が空母を日本海方面へ派遣し、米朝戦争が勃発しかけていた。ところが日本の国会はといえば、戦争の危機などほとんど話題にもならず、ひたすら森友学園問題一色であった。
 それから1年、国会の予算委員会では、また森友学園で大騒ぎである。この1年、国会で論じられた最大のテーマは何かと世論調査でもすれば、たぶん、森友・加計学園問題だということになるであろう。両社は、今日の日本を揺るがすそれほどの大問題だったのか、と私など皮肉まじりにつぶやきたくなる。
 朝日のスクープした財務省の文書改ざん問題は、森友学園問題というよりも、まずは財務省の問題であり、官僚行政の不法行為に関わる問題である。私は、この問題の重要性を否定するつもりは毛頭ない。しかし、当然ながら野党は朝日のスクープを安倍政権打倒の格好の材料とみなし、その後、対新聞もテレビの報道番組もワイドショーも、連日のように、「真相究明」をうったえ、このひと月、日本の政治は財務省、森友一色になり、安倍政権の支持率は一気に下降した。
財務省の文書改ざん問題と、昨年来の森友学園問題はいまのところ別問題である。しかし、野党や多くのメディアもまた大方の「識者」も、官僚行政がせいじによって(特に首相の私的事情によって)歪められたことは民主主義のは会だ、と言っている。だが、私には、現時点でいえば、この構造そのものが大衆化した民主政治そのものの姿にみえる。
 今、この問題はおおよそ月のように論じられている。「財務省のなかで、森友学園に対する国有地払い下げ問題についての決裁文書が書き替えられた。日本を代表するエリート集団であり慎重にも慎重を期すはずの財務官僚がこのようなことをするとは考えられない。とすれば、強力な政治的圧力がかかったのであろう。それだけの政治的圧力をかけるのは官邸か財務大臣であろう。にもかかわらず、さがわ前理財局長にすべての責任を負わせて幕引きをはかろうとしている」。
 おおよそこれが、野党の主張であり、テレビのワイドショーや報道番組も含めた大方のメディアの報道姿勢であり、まさしくその方向で世論が醸成されている。
しかし、現時点で確かなことは、ただ財務省内部での改ざんの事実であり、官邸の関与はなかったと佐川氏が発言したことであり、森友学園問題は現在、検察が捜査中、ということだけである。官邸が関与したという事実は何もでていない。財務省内部で「忖度」があろうがなかろうが、首相夫人が安易なリップサービスをしようがしまいが、それは官邸の関与を示す証拠にはならない。
現時点では証拠はない。だが証拠がないから、野党は、財務省も官邸も「真相」を隠そうとしている、と主張する。多くのメディアがそれに同調し、連日のテレビや新聞報道を通してそれが世論になる。ひとたび世論となれば、国民は「真相解明」を求めている、ということになる。こうして、あたかもかんていや財務大臣が財務省に圧力をかけ、「事実」を隠蔽しようとしているかのようなイメージが作られる。だがそれが事実かどうかは現時点ではまったくわからないのだ。

 異論のススメより-----佐伯啓思